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Asinaのリオ (第2回)

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Ⅱ バブル

僕が生まれたのは和田別荘跡という、らしい。
らしいというのは、もうそこには建物はなく
今では茅や篠竹、雑草が伸び放題で、
その根元に瓦の残骸や板切れが散らばった荒地でしかないからだ。
でも10年前まではたしかに大きな別荘があったんだ。
そこで僕のおじいちゃんやおばあちゃんたちはのんびり暮らしていたんだって。
ほんとに陽当たりの良い、居心地のいい家だったらしい。
南に芝の庭がひろがり、すぐ前は港。和田さん一家もとても優しかったそうだ。

そしてそんなある秋の朝。
突然ショベルカーと大きな5人の男達がやってきて家を壊しはじめたんだ。
それはもう乱暴に。憎しみをはらすかのように徹底的に。
その頃まだ子どもだった母さんは、とても恐い思いをしたと
ことあるごとに僕に聞かせてくれた。
「そういえば」
と母さんはその頃の事を思い出していう。
「夏になっても、一家は一度も遊びにこなかった。それがなにかの・・・」
「和田さんってひとに、なにがあったの?」
「わからない」と母さんはため息をつく。
「わかったのはお腹が空いても、もう誰もなにもくれないてことだけ」

最近になってわかったことは、
別荘が壊されたのはマンションを建てるため、だったらしい。
それも和田さんではなく、別の人が。
この土地はもう他人のものになっていたんだ。

しかし別荘が壊されてから5年たっても
いまだにマンションは建っていない。建つ気配もない。
最近街から引っ越してきた赤坂おじさんが、この荒地――僕の快適とはいえないが、ベッドもある――を見て、
「夏草や 地上げバブルの 傷の跡」とつまらなさそうに
呟いていたのを、陸に揚げられた古い伝馬船の陰から耳にしたんだけど。
バブルって何?

(つづく)