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酔生夢死

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ある一族の話をしよう。始まりはひとりの男だった。男はわたくしの曾祖父にあたる。彼は教員をしていた。しかしながら師範学校を出ていない彼はいくら頑張っても、ある一定以上の出世が望めないことは誰の目にも明らかだった。
彼は満州に渡った。その当時満州には日本が建国した偽りの国家があった。たくさんの日本人が渡った満州では、教員が不足していた。彼はそこに活路を見出だした。

男の息子は背の高い子供だった。どの写真を見ても、周囲のものから頭一つ分、ときにそれ以上飛び出ている。くっきりとした二重とゆるく波打つ髪が印象的な子供だった。背の高い息子は勉学に励み、当時満州に唯一の帝国大学、満州建国大学に進学した。
体格に恵まれていたが、彼は勉学を好んだ。しかし時代は彼から勉学を奪った。彼は繰り上げ卒業という形をとることとなり、そして学徒出陣で兵員徴収された。


結局日本は負け、男は一家で本土に引き上げることにした。引き上げ船は、男女に分かれていた。男性の乗る船で、伝染病が流行った。男は罹患し、船上で死んだ。遺骨はない。死体は筵に巻かれて海に捨てられたという。大陸に夢見た男は、海上で死んだ。

大黒柱を失った男の家族は、食っていくために働かなければならなくなった。勉学を愛した背の高い彼―わたくしの祖父にあたる、は新生国立大学の入学許可を得ていた。建国大学生は、国立ならばどこでも入学できる資格が与えられていたのである。
しかし祖父は生きていかねばならず、大学をあきらめ働き始めた。いくつか仕事をした後、警察予備隊に入隊した。
彼は体格に恵まれていたから、出来ない仕事はなかった。



ずっと後のこと、彼は中国に渡った。満州建国大学は名を変え、中国の大学になっていた。彼は愛するハルビンの記憶とは異なる姿を見てどう思ったことだろう。わたくしには知る由もない。


祖父は酔うと中国の歌を歌った。しかし中国語を話しているのを見たことはない。話さないのか、話せないのか。だがたれもあまりそこに興味を持たなかった。


祖父は死んで、骨になった。
彼のすねの骨は真っ直ぐで長く、わたくしの母は義父を尊敬していたので、「やっぱりおじいちゃんは骨になってもかっこいいわね」と云った。わたくしも黄色人種のわりに長いその足の骨を見つめて頷いた。





作品名:酔生夢死 作家名:おねずみ