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幸福なあなた方へ

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誰かを選ぶということは、誰かを選ばないということだ。何かを選ぶということは、何かを選ばないことだ。それが残酷なことであっても、人間はそうやって生きていく。多くのことはそのことに自覚的ではなく、たとえば靴の裏に蟻の生命が絶えたのに気づかない程度に残酷で鈍感だ。時々、少数の人はその残酷さに気づき、悩み、生きることが出来なくなってしまう。
それはまた別の話であるが。
凪砂は、少し戸惑った。自分の腕をつかむその人にも確かにぬくもりがある。つまり彼は生きている。つまり彼は意識を有している。感情がある。憤る、愛する、涙をこぼす。
「なんで?」
疑問というのは人間の繁栄に不可欠なものなのだろう。そう、彼は進化していく人だ、凪砂は思った。
「なんでっていうのは…?」
何に対しての疑問か、よく分からなかったので問い返す。
「何であの男?」
あの男、というのはおそらく桐のことであろう。凪砂は全てを理解した。この男は言葉足らずだと思う。だから、一見穏やかな人間に見えるのかもしれないが。
「二郎くんは、人ごみの中で哀しい気分になったことある?」
「…?どういう事?」
二郎はわずかに頚をかしげた。そういう仕草を半ば意識的におこなうのもずるいと思う。思うに、彼は猛禽類なのだ。爪を持っている。ついばむ。けれどそれを極上の優しそうな羽で隠して、目はうっすらと閉じられているので気づかない。
「人がたくさんいるのに、孤独を感じるの、私は。たくさんの人が早足で歩いてるのに、その流れにのっていけない。私はそういう人間なの。そして、桐もそうなの」
「それが、凪砂があの男を好きなのとどう関係があるの?」
これは本気で分からない、という感じで問うてきた。声が少し低くて、早口で、化けの皮がはがれてるよ、と凪砂は思った。
「傷を舐めあいたいのよ」


ああ、私は誰かを選ばないのだ。今目の前の人間を傷つけて、それでも欲しいものがある。しかし傷に自覚的な自分は罪悪感という形で贖罪をすることができると思った。桐の背中に傷があるのなら、それは私の傷と一緒だ、瞼の裏に貧相な桐の背中を想像し、そこに手を触れる自分を夢想した。
すごく素敵で、同時に非生産的だと思った。
それでも桐が良い、凪砂は今一度強く感じた。





作品名:幸福なあなた方へ 作家名:おねずみ