Asinaのリオ
Ⅰ 僕たちの村
その村には猫の額のように、
ちっちゃな、ちっちゃな港がある。
港というより、船溜まりといったほうがが似合っているかな。
4、5隻の漁船が、居眠りしているように、
日永いちにち、うつらうつらと上下に揺れている。
港を見下ろす高台には、毎年3月3日の雛祭りが
近在の人にはわりと知られている、これまたちっちゃな神社がある。
それが淡島神社で、お祭の日一日だけどこかから
酒臭い太った宮司さんが現れてきて、その日以外は無人だ。
お社の前にはミカン箱くらいの賽銭箱もいちおうあるんだけど、
そぉーっと覗いてみても、茶色いコインが1、2、3・・・。
ガッカリするよ。もちろん僕のお金じゃないけれど、心配になるくらいさ。
神社への急な石段を登り切って振り返ると、
この村の全体を見渡すことができる。
小さな港に小さな砂浜。ほんとに小さな村だ。
けれど、僕のやんちゃで(自分ではそう思ってないけどさ)、
なんにでも首をつっこんでしまう好奇心ってやつは、毎日大忙しさ。
眼の下には村のみんなの家があって、
さっき村のチャイムが「浜辺の歌」を流したから、もう6時か。
そろそろ家に灯りがともる頃だ。
猫爺の家が見える。下の田のお父さんちも。
競艇さん。虎太郎。たまちゃん。ミエチャン。もり君。
マルガリーダ。赤坂おじさん。それから、焚き火爺さんちに井戸端屋。
藤川先生。ニック。名人。タコ。グリグリ。市川さん。
でぇでぇ婆。素敵ね婆ちゃん。にこにこ爺ちゃん。ミヨちゃん。
もぐり。常丸さん。ユーレイ。フ-センおじさん。ワカメお兄ちゃん。
みんな、一日の終わりのあたたかい食事の席につく頃だ。
だけど、僕に家はない。
(つづく)