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稜(りょう)
稜(りょう)
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【独伊♀】Your Knight 1【サンプル】

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プロローグ



「一週間、孫のボディーガードをやってくれ」
 入室するなりの言葉に、ルートヴィッヒは耳を疑った。
 彼が呼び出されたのは、勤めている警備会社の社長室だった。がっちりした体格の男が、木目の美しい巨大な机に両ひじをついて指を組み、そこにあごを乗せている。
 この人物は、言うまでもなく社長その人である。背後の巨大な窓から差しこむ陽射しが逆光となり、彫りの深い顔立ちを強調している。彼を射るように見つめる目は、しわに埋もれそうになりながらも、険しく、鋭い。
 それもそのはずで、社長は、相棒(現在の専務)と興(おこ)したこの会社を、数十年で一流に育て上げた剛の者である。そうした人物の常としてワンマンなきらいはあったが、若いころは同じような警備会社で平社員として勤めていた経験があるため、社員たちへの理解や思いやりは深い。そのため、人柄に惹かれ、慕う者は多かった。
 対する彼は、入社一年めの平社員だ。社長と一対一で話すことすら、今日が初めてである。呼び出しを聞いたとき、真っ先に人違いを疑ったくらいだ。
 やましいことをした覚えはないのでおそれはなかったが、あの社長が自分になんの用があるのかさっぱりわからず、ひたすら困惑していた。そこへ来て、いきなりの任命である。
 社長の身内を警護する――これはとんでもない大任だ。自分の身内につけるボディーガードに、あえて無能な者を選ぶわけがない。厳しい選抜とふるいわけが行われるのが常だ。それを知りながら、いや、知っているからこそ、混乱した。
 自分の力量に自身や自負がないとは言わない。今までの成果や努力が上司に認められていることも知っている。だが、それらは決して、社長の孫のボディーガードなどという大役を仰せつかるほどのものではない。
「なんだ、浮かない顔して。役不足か?」
「まさか。……むしろ、私では力不足かと思うのですが」
 気弱な発言を聞き、社長は豪放(ごうほう)磊落(らいらく)に笑った。「評判どおりの堅物だな」とおかしそうにつぶやいて、応接用のソファーに座るよううながす。ためらいながら腰を下ろし、落ち着かない気分で指を組んだ。
 社長は内線で秘書にコーヒーを持ってくるように命じてから、彼の差し向かいに座った。数分と経たずに美人の秘書が運んでくる。社長は彼女をディナーに誘ったが、あっさり断られていた。よくあるやり取りなのだろう。
「不満や疑問があるなら遠慮なく言え」
 コーヒーにどばどばと砂糖やミルクを足しながら、「どうなんだ?」と目で訊ねてくる。彼はなにも足さずにブラックのまま一口飲んだ。
「ご令嬢を警護する者は、すでに決まっているはずです」
 去年あった会社の創立記念パーティーで、ちらりとだが、社長の孫たちを見たことがある。そのわきに控えている、彼女たちのボディーガードも。彼の先輩社員だ。
「ああ、もう決まってる。だが、一人が一週間の休暇を取って、急遽(きゅうきょ)代理が必要になってな。まぁ、ぶっちゃけ、つなぎだ」
 正直に言えば気落ちした。だが、それはどうでもいい。残っている疑問の方が大事だ。
「なぜ私が? つなぎだとしても、私よりすぐれた人物はたくさんいるはずです」
 彼は生真面目だったのだが、社長は爆笑寸前の顔になった。
「噂よりもすごいクソ真面目っぷりだな。ま、それくらいでないとな」
「どういうことですか」
「大事な孫に手を出すような男だと困る」
 社長の孫娘のどちらかと結婚した男が、次の――。まことしやかにささやかれている流言は彼も聞いたことがあった。そして、孫のボディーガードにした者は婿候補、という話も。
 ボディーガードと依頼人は一緒にいる時間が長くなる。そして、身体を張って守るという行為は、二人の結びつきを強くする。そのまま恋に落ちる者も、決していないわけではない。
 だが、公私をきっちり線引きする彼からすれば、それは絶対にありえないことだった。むしろ軽侮の念すら抱いている。なぜ仕事中に恋愛などという個人的な感情を芽生えさせるのか、さっぱり理解できない。できる気もしない。
 さらに言えば、社長の孫娘たちは、まだ高校生だ。下手をしたら犯罪になってしまう。
「だから、お前くらいの朴念仁(ぼくねんじん)がちょうどいい。そういうことだ」
「……はぁ」
 褒められたのかけなされたのか。微妙なところだ。消化不良だと訴える感情は黙殺することにした。とにかく、疑問はこれですべて消えた。
「引き受けてくれるか」
 空気が緊張するのを感じ、気持ちを引き締めた。社長はこちらの質問にはすべて答えた。あとの判断はこちらに委(ゆだ)ねられている。
 一週間の、大きな任務。気後れはある。うまくやれる確信よりも、不安が勝る。
 ――だが。
「やらせてください」
 冗談めかしていたが、信頼されていることは伝わってきた。それを感じ取ってしまえば、あっという間に使命感に変わってしまう。普段は決してそんなことはないのに、そう思わずにはいられなくなるのは社長の人柄だろうか。
「頼んだぞ」
 差し出された手を、しっかりと握り返した。