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暦巡り

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白露 9月8日




 つやつやの炊き立てごはんと、豆腐とねぎのお味噌汁。
 モヤシのおひたしおかかあえ、蓮根の金平、胡瓜と茄子の糠漬け。
 そして忘れてはならないメインディッシュ、旬の秋刀魚の塩焼きです。たっぷりの大根おろしを添えました。ぶっちゃけ、大根をおろすのは非常に面倒くさいのですが、これがないとはじまりません。ああ、この芳ばしい香り……秋ですねえ。
 食卓に並んだ今日の夕食。腕によりをかけてこしらえました。出来立てほかほかです。
 はやる気持ちが抑えきれず、イタダキマスと合掌し、さっそく秋刀魚に取り掛かろうと箸を取る。
「……魚」
 アメリカさんの不満そうな呟きが聞こえたのは、そんなときでした。
「ええ、お隣からおすそ分け頂いたんです。産地直送の秋刀魚だそうですよ」
 旬なので美味しいですよと箸を勧めれば、差し向かいのアメリカさんはへにゃんと眉を八の字に下げます。あきらかに困り顔。
「お魚嫌だったんですか?」
「ううん、日本の作る料理はなんでも美味しいから好きだぞ! ……でも」
「でも?」
「丸ごとの魚は食べづらいんだぞ」
 口を尖らせてぼやく姿はまるで拗ねた子供のようです。そういえば、いつもは切り身の魚ばかりでしたね。といいますか、塩じゃけのヘビーローテーションだったような気も……。
 おそばやラーメンはお箸で器用にたぐれるアメリカさんでも、丸魚の骨取りはいささか難易度が高かったようです。
「では、私がほぐして差し上げましょうか?」
 本来なら、箸使いの練習の為に自力で頑張ってもらいたいところですが、今日は旬の秋刀魚、しかも初物です。わずらわしいことは抜きにして、ぜひ美味しく召上っていただきたい。少しお手伝いすることにしますか。
「ぜひお願いするよ!」
 私の申し出にぱっと顔を輝かせるアメリカさん。ああ、なんて可愛らしい稚気満々の笑顔。思わずこちらの頬も緩みます。
「今日だけですよ」
 そう言って、私はアメリカさんの秋刀魚が乗った角皿を引き寄せ、解体をはじめました。
 秋刀魚は小骨も少ないですから、ほぐすのにさほど時間はかかりません。
 期待に満ちたアメリカさんの目が、私の作業を見つめています。その様子がご馳走を前にマテをされた子犬のようで、少し茶目っ気がおきました。
 醤油をたらした大根おろしとむしりとった魚肉とを絡めて、
「はい、あーん」
 アメリカさんの口元に箸を寄せると、彼はつかの間驚いたような表情を見せましたが、特に文句を言うこともなくすんなり秋刀魚の塩焼きをほおばりました。
「どうです?」
「うん、おいしい!」
「それは良かった」
 笑顔のアメリカさんに微笑み返し、私はまたほぐした秋刀魚を差し出します。嬉々として彼は口を開けました。
 私はまるで雛に餌を運ぶ親鳥のよう。ふふ、それもまた一興ですね。
 アメリカさんが幸せそうな顔であらかた秋刀魚を平らげた頃、ふと魔が指しました。皿の上に残るのは、骨とワタ。ワタは苦味が強く好き嫌いが分かれるところ。アメリカさんは、さてどうでしょう。……お子様嗜好のこの方では結果はわかりきっていますね。
 秋刀魚のワタを同じようにして箸にのせます。
「あーん」
「あーんんっ……!?」
 なんの疑いもなくワタを口にしたアメリカさんが、思いっきり顔をしかめ身震いをしました。ああ、やっぱり。
「ちょ、なんだいこれ! すっごく苦いよ!?」
「秋刀魚のワタですよ。通な大人には喜ばれるのですが、アメリカさんにはまだ早かったみたいですね」
 含み笑いでそう答えると、「むう……」と一声うなって、アメリカさんはじとりと私を見据えます。それから、口の中に嫌な後味が残るのか、「でもやっぱり苦いんだぞ……」と、眉をひそめてぽつりともらしました。意地悪すぎましたかね?
「すみません、アメリカさん。お詫びに、明日はアメリカさんのお好きなハンバーグをこしらえますよ」
「本当かい!」
「ええ」
 秋刀魚ハンバーグですが。
 笑顔を浮かべつつ、すみませんと心の中で謝罪する。
 いっぱい貰っちゃたんですよ、おすそ分け。



END

作品名:暦巡り 作家名:チダ。