空も飛べるはず
笑うと八重歯がのぞく。黙っていると大人びた感じがするが、口を開くと関西弁というのも相まって非常にくだけた印象になる。
佐倉学。小学生の間に習う漢字で姓名をつづることができる彼は、ときどきとても遠い目をする。みっつの小学校が合わさって一つの学区になる宮中で、彼だけが関西弁を話した。大阪のはずれのほうから来たのだという。はずれとはどのあたりを指すのか俺は知らない。
ポジションはPG。クォーターによってはGもつとめる。俺はひそかにこいつの視野の広さを買っている。こいつのゲームメイクは面白い。隙を突くのが上手で、スマートなオフェンスをする。ただ、体力に自信がないのかディフェンスの手抜きはちょっとすさまじいものがある。ほとんど歩いている。
「こら、サボり」
声を掛けるとびくりと肩を揺らし、そろりとこちらを振り返った。
「なんや、中橋か」
「なんやとはなんや。外周おわったのかよ?」
「無理無理。あんなん走りよったら血ィ吐いて死ぬわ。俺部活で死にたくない」
「まあ、やりすぎとは思うけどさ、お前も少しは努力っていうもんをしろよ」
「努力!俺と一番縁遠い言葉やわぁ」
のんびりと間の抜けた声で云い、佐倉はへらりとわらった。八重歯がのぞく。
「お前、ガードしたくねえの?」
「え?ガードはたいせーくんで決まりやん。本人むっちゃやる気やし」
「俺はお前ガードのセンスあるとおもうけどな」
あ、また遠くを見た。薄く笑う。
「人と争ってまでしたないわ。PGもおもろいし。中学生ってスリーあるからおもろいよな」
「お前さ、」
そこまで云ってやめた。何を云うつもりだったのだろう。自分でもよく分からなかった。
「たいせーくんは眩しいなあ。がんばってるし、自信満々やし。実際うまいし。全国でたんやろ?お前もやけどさ」
宮北小は全国大会に出た。けれど三回戦敗退だ。とてつもなくうまいというわけではない。だいたいうちの県は全体的にバスケのレベルは低いし、全国に出るまではそこまで大変なことではないのだ。
「俺なー、全国出られへんかってん。あと一歩やったんやけどなー。努力以前の問題というもんを見てしまったわけだよ。小学生にして」
大阪。どこが代表だったろうか。桜前?そんな名前のチームだった気がする。初出場、準優勝。キャプテンの顔をよく覚えている。眠そうな顔をした、まだ成長期前といった感じだった。名前はたしか。
「北側優太郎。桜前小学校ってゆーとこ、あ、大阪代表やねんけどそこが、そこのキャプテン。あれえげつないで。天才や天才。でもそんな天才でも準優勝。優勝した長坂のキャプテン見た?あんな女みたいな顔して、ちびっこいのにむっちゃ早くて。シュート全然外さんし、半端ねえよ」
「なんかさ、鼻をポキンとやられてしまったわけ。それから真剣にできんねんな。程ほどに、楽しくやれりゃ、ってかんじになってん」