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ぼくたちおとこのこ3

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「あ、帰ってたんだ」
「うん、今日実験で終わりだったからすぐ帰れたんよ」
「そっかー」
なんかどっと疲れが出て、そのままベッドに身を投げ出した。

「どしたん?」
ケータイをかちゃかちゃやってた美島が、こちらを覗き込みながら尋ねた。美島という名前にも驚くが、その名前に負けない顔をしたこの男の存在にも驚く。天は二物を与えずとたれか昔の人が云ったらしいが、絶対に嘘だ。美島は美しい顔とすらりとした体躯と、それに似つかわしい声を持っている。
「んー、ちょっと実習疲れただけー」
「あは、お疲れ様。僕も今日の実習怖かったからなんや変な疲れかたしたわ」
「何したの?」
「何かねぇ、伝統魔術がどーたらって話で、口寄せの練習した」
「口寄せ・・・でもあれって元々の才能とかあるよね」
「そう、だからほとんど誰も出来んかったんやけど、」
そこでタイミングよくドアをノックする音が聞こえて、美島は話すのをやめ、どうぞーとドアに声を掛けた。

ドアの向こうからあらわれたのは、美島と同じ班の七瀬伶だった。雪彦の従兄弟だと云う彼は、血縁者なことが一発で分かるほど似通ったすがたかたちをしている。しかしながら雪彦とは違い、思ったことを直ぐ口に出すようなタイプではないので、女子の間ではかなり人気らしい。

「波、くすり」
ぽいと放られた塗り薬は、綺麗な弧を描いて美島の手の中に納まった。
「ありがとう」
「明日は?」
「八時に、薬草園の前で」
「わかった」

短い遣り取りをして、伶はすぐ出て行ってしまった。二人のやりとりに主語はなくて、なんとなく置いてけぼりを食らった気分がした。
美島は手の中の塗り薬をすぐに机の引き出しにしまった。それについて聞かないのは、俺たちの中のルールだった。もっとも、それに触れたら今の関係性が壊れる気がして、臆病な俺が聞けなかっただけというのもあるが。でも、普段はあけすけな美島も、その塗り薬については何も云わないので、本当に聞いて欲しくないんだと思う。
「明日、水遣り?」
「せやねん。薬草園の水遣り。絶対蚊に刺されるわぁ。しかも将ちゃん来れへんらしいし」
「あれってなんで魔法でやっちゃ駄目なんだろうね」
「ほんまやなあ」
美島とは、中身のある会話をしたことがない。一年と二年という、学年の違いもあるが、お互い何かと触れられたくないことが多すぎるのだ。そして、お互いがそのことに突っ込めるほど無遠慮でもないし、たれかに本気でぶつかれるような熱い人間でもない。いつもいつも、天気の話のように、記憶にも残らないようなその日限りの話しかしない。果たしてそれが良いことか悪いことか、俺にはよく分からないが、あと残り九ヶ月ほど、このままの調子でやっていけるとは到底思ってはいなかった。
きっと、どこかでぶつかる日が来るだろう。

「あ、」

美島の声で思考は中断させられる。

「そういえばな、黒木くんに聞こうと思っててん。今日女の子にこれもらってな、どうしたらええんやろ?」

見るとそれはミスコン参加用紙だった。

「ミスコンって、女の人選ぶやつやないん?」
「ああ、うちの学校だけ、ミスがミスターの略になってんの。うち女子多いでしょ?女子の楽しみを増やせ!みたいになってね」
そういえばそんな季節になったのか、ぼんやりと去年のことを思い出す。毎年一年生を対象とするミスターコンテスト、略してミスコン。俺らの代は稀に見る外れ年と云われ、選ばれた二組の岩井も、今ではたれ一人として覚えてはいないだろう。

「あのさ、五年に佐古先輩っていう、めっちゃ優秀な人がいるの知らない?去年四年で魔法検定一級に受かった人。あの人の班はね、王子班って呼ばれてるんだけど、それはあの班に、荊木さんっていうミスコン優勝者がいるからなんだよ」
「え、したらあの三年の高田さんの班とか、四年の武藤さんの班も?」
「そう、あれもミスコン優勝者がいるから、王子の班で王子班って呼ばれてるの」
「へえ、じゃあ、二年の王子班は?」
「それは聞かないでやって。もうたれも俺らの学年の優勝者覚えてないから」
「何で?」
「俺らの年はね、稀に見る外れ年だったんだってさ」
笑って立ち上がる。今日は疲れたからさっさとシャワー浴びて寝ようと思った。明日も朝から妖精を取りに行かなきゃいけない。

「うそー!僕黒木くんかっこええと思うで」

「ありがとう」
美島の顔で、かっこいいなんて云われても、ほとんどお世辞にしか思えなかったけど、その言葉をありがたくもらっておいた。






作品名:ぼくたちおとこのこ3 作家名:おねずみ