購いの系譜
新しい王。
美しい街。
王子シエラは、揺れの激しい馬車の窓から外を盗み見た。
1ヶ月後から、半年の間、このカルトゥリダに王キアパスが滞在する。それはこの国の、有史以前からの習わしだ。
そして王子がその準備をするのもまた有史以前からの習わしであった。
「シエラ様は、新しいシャオとはもうお会いになられまして?」
向かいに座る女官が声をかける。
「ああ、一度。去年の即位の儀式の頃かな。王の使いとしてこちらに来たから…」
「そうですか。私はまだで。何でも新しいシャオは男の方だとか。きっとシエラ様とおはなしも弾むことでしょう」
女官は何の悪気もなく云った。シエラはその言葉にひっそりときずついた。
贄に手をかけるのは、いつだって王だ。つまり新しいシャオも、前世でシエラの先祖のだれかに殺された者なのだ。
どのシャオもそんなことおくびにも出さないが、シエラはいつもそのことに悩まされていた。
だいたい、自分には。
そこまで考えてシエラは首をふる。いけない、あの記憶はあってはならないものだ。
そうしてグローブに隠れた己が手をじっと見つめた。