イノセントワールド3
言葉は平気で嘘をつく。から嫌いだ。と思っていたら理央が云った。
「多分江梨は、俺のこと穏やかだとか思ってるんだろうけど、違うよ」
ゆっくり言葉を選ぶように紡ぎながら、あたしの背中をなぜた。その手のひらの大きさにはっとしたけど、どの指にも性的な匂いがのってないことに安心した。
「怒ったり、喜んだり、ぱっと出来る人は頭がいいんだと思う。俺はね、一つ一つの出来事を咀嚼してんの。そしたら感情が置いてきぼりにされる。怒りたくても、まわりはもう笑ってる」
「あんまりたいした人間じゃない。けど江梨はね、特別な人間だよ」
「なんで?」
「人に愛される才能をもってる」
「まさか!」
「だって、世の中には綺麗な姿かたちをしてても愛されない人がたくさんいるのに、江梨は誰にでも愛される」
「みんな江梨とヤりたいだけだよ」
「俺はそうは思わないよ」
「りょんは格好いいから江梨程度じゃ満足出来ないだけだよ」
「違う。なんか、そういう単純な愛じゃなくて、もっとね…何て云うか、うーん…江梨のためなら何でもしたい」
「カルガモのお母さんだ」
あたしは云いながら理央の髪を触った。少し前はダークブラウンで、本当にカルガモみたいだった。
「懐かしいな。でも、そんな感じ。男にも母性本能があるなら、俺の母性本能がはたらくのが江梨に対してなの」
「何となく分かった。りょん、ありがとう。ねぇ、りょんまたあたしのお世話してくれる?」
「いいよ。江梨の世話してるとね、自分がしっかりした人間に感じられて少し気分がいい」
二人でわらった。
正直、理央が全く性的な感情をあたしに抱いていないと云ったら嘘になるだろう。
けど、今はそれ以上に、理央はあたしにお母さんみたいな愛情を抱いている。
いつかあたしがもう少し大人になったら、理央に向き合えるのかもしれない。
作品名:イノセントワールド3 作家名:おねずみ