夜の張り込み
深夜。車の中でコンビニのおにぎりをパクつきながら、柳瀬はふと思いついたことを徒然と喋った。
柳瀬が務めている出版社はそう大きくないが、大きくない割にいいネタを掴むところがハングリーな輩を微妙に刺激するらしく、男女関係なくやる気に満ち溢れたカメラマンが集まっている。
体力的に深夜の取材なら野郎の方が楽だろうが、それでもやるという若い女も多いだろう。
柳瀬はといえば、まぁ若いといえば若いが、どこかのんびりした気質が他から浮くのか、なかなかこういう突発の取材の声はかからない方だった。
「腕」
「・・・はい?」
「おまえの腕がいいから」
両腕を頭の後ろで組んで両目を軽く閉じている先輩をチラっと見て、取材対象のマンションに目を戻す。
どうせ長丁場なのだから、見張りは交代にしようと言い出したのもこの先輩だ。
この業界、腕がいいなんてことは大した利点じゃない。
必要なのは別のものだ。
そう気づいてから、なんとなく仕事を熟すようになってしまった柳瀬からすれば、なんともピンとこない答えだ。
「そんなもんスかねぇ」
コンビニおにぎりをパクついて、柳瀬はぼんやりとマンションの入り口に目をやった。
売れるネタを欲しがる人は、もっと違うことを考えているんじゃないかと思ったが、世の中そう都合よくはいかないものらしい。
つまんねー仕事。
そう思いながら、胸のどこかがワクワクしてくるのを柳瀬は感じていた。