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王子と伴侶のまさかのハロウィン!

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王子様の名前はシヴァ・F・ジャヴェロット。
 伴侶殿の名前は桃鳴深雪。

 ちょっと普通と違う二人は、人間界でばったり出会い、うっかり恋に落ち、
 異文化の壁をひょっこり飛び越えて、いつまでも一緒にいることを決めました。

 そう。
 
 二人がちょっと普通と違うところは、王子様は超絶偏食症。
 ついでに言うなら、好物は性交渉中の伴侶殿の精気だったのです!


* *


 その日、桃鳴深雪が起きてから、なにやらずっと違和感があった。
「…………む~?」
 頭の上の、そう。ぴょこりと立ち上がったくせ毛……アンテナの当たりが重たい感じがするのだ。しかし、いつもと変わった様子はない……と思われる。
 恐る恐るちょいちょい、と触ってみる。
しかし、別段何かがぶらさがっているとか、垂れ下がっているようだとか、特に問題があるわけでもないようだ。
 いつもどおりだが、でもなにか違う。
「……なんか受信してるのかなあ?」
 深雪は首を傾げながら、ベッドから衣擦れの音だけをさせてするりと立ち上がった。
 首を傾ければそちらに引っ張られるように重いのだ。
 それでも、そんなことを気にしていても仕方ない。
 簡単に湯を浴びて、それから服を着て。その後に食事を済ませると、サガがやってくるはずだ。
 もちろん先日サガから出された宿題は、もうすでに済ませてある。
「はふ」
 深雪は眠そうに欠伸を一つ零して、その後の諸々の準備のためにバスルームに消えていったのだった。


* *


「おや、今日は荒れそうだねえ」
 いつもの通り、ずるずるの長いローブを引きずってやってきた魔界の大賢者が、のんびりとした口調でそう告げた。手には人間界で言うところの新聞を持っている。
 どうやらこれは毎朝、訓練された配達の飛竜が希望者の元まで届けてくれるものらしい。
 さほど大きいものでもなく、サガの話によると王都周辺の話題しかないので、どうやら地方紙と同じようなものらしい。
「……荒れる、って天気が?」
 サガの前で一生懸命に絵本を書き写していた深雪はその言葉に首を傾げた。
「うん、久しぶりに雷帝ウナギの大群が王都周辺の上空に来ているらしいから、結構大きな雷が鳴るかもね」
 これが結構な脅威なんだよ、とサガが告げるのに、深雪はかくりと首を傾げた。人間界で天気の脅威といえば、水害や災害しか思いつかない。
「ああ、うんと魔界では魔力は耳で司る話は前にもしたよねー?」
 いつだったか、深雪が何も考えずバルガの耳を掴んでしまったことがある。その後にサガから聞かされた話でそんなことを言っていたのを思い出し、こくりと頷いた。
「鰻(ばん)雷(らい)が鳴ると、気圧に変化が起こって大気中の魔力因子が乱れるのさ。魔法が発動しなかったり、暴発したりする。音の帯域にも干渉するから、中には具合の悪くなる人もいるしね。逆に元気になっちゃう人も。まぁ、天災みたいなものだよ」
「サガくんもどこか今日はおかしいの?」
「いやあ、俺は魔力がないからねえ、そんなこともないんだけど、肩は凝るかな~?」
 のんびりと他人事のように告げるサガの言葉は、どちらかというと人間界でよく聞くもので深雪は軽く笑ってしまう。
「ふぅん、じゃあ俺も大丈夫かな?」
「そうだね。深雪ちゃんは耳魔族じゃないから、魔力的には干渉されないと思うよ。気圧で調子が悪いなんてことはあるかもしれないけどね」
「なるほどねー」
 魔界では雨は魚が降らせるとは以前聞いたことがあるが、雷もウナギが落とすらしい。
 見たことのないものは意外と想像しにくいのか、深雪は眉を顰めて告げる。
「まあ、いずれ見れるよー、巧くいけば今日当たりいけるんじゃないかな?」
 まだ王都の手前の森で停滞しているみたいだから近づくのは夕方かな、と告げたサガの言葉に深雪はただ頷いてまた絵本の書き取りに向かう。
「シヴァなんかは体質上、鰻雷なんかには影響されにくいみたいだよ」
 サガの言葉を聞いて、深雪はほっとしたように小さく息を吐いた。


* *


 その日の夕方。サガの予想通り窓の外ではゴロゴロと雷が鳴り始めた。
 シヴァが公務を終えて執務室から戻ってきたのは、いつもよりも早い時間だった。
 実は最近、シヴァと深雪は、異文化交流という名目で互いの世界の行事や節句などを教えあうという二人だけの密かな遊びを行っている。
 当初は深雪に魔界の知識をつけさせる為に始めたことであったが、今では人間界の風習を逆に聞くことも増え、いつの間にか互いの文化風習について交流する機会となった。マンネリの防止にも大いに役立っているし、世界を捨ててきた深雪が少しでも寂しがることのないようにと考えているシヴァにとっては都合がよい。魔界で人間界の文化に習うことは深雪を気遣う上でのいいリサーチにもなるし、深雪の機嫌も上々だ。何より楽しい。
 本日も夜の食事の前に、シヴァは深雪を膝の上に乗せてお題、秋の行事について話しはじめた。
「……それで、人間界……日本では、秋にはどんなことをするんだ? 今日の格好は?」
「うん、あのな」
 シヴァの問いに深雪は、秋は主に、お彼岸、秋祭り、運動会、ハロウィンだと告げる。
 もちろん深雪の格好は、ハロウィンにちなんで自らのクローゼットから引っ張り出してきた、とんがり帽子とマント、ヘソ出しインナーにホットパンツというウィッチスタイルだ。要するに仮装である。
「はろうぃん?」
 聞きなれない単語にシヴァが首を傾げて、ひらがなで聞き返す。そんなシヴァに深雪は身体を摺り寄せて顔を覗き込んだ。
「仮装をして、かぼちゃに蝋燭灯す日」
 深雪がさも知っているかのように胸を張って答えることは、事実とは認識が大幅に間違っている。
 しかしハロウィン自体、縁の薄い日本育ちの深雪にとって、認識はそんなものだろう。
「ヘソを出して?」
「ちがうよー。これはしば用にこういう格好なの、サービス。本当はもっと、おばけっぽい仮装をするんだってば。なんだったかなぁ」
「かぼちゃでも被るのか?」
 ヘソが見えている服の隙間から、するりと手を差し入れたシヴァがさわさわと深雪の肌を探る。
「そう、そうだよ! あれ? 被るんだったかなぁ? とにかく、子供たちがね、……あっ」
 シヴァの手のひらが、胸元まで這い上がり、乳首を掠めるその刺激に深雪の声が跳ねた。
 ぴくんと小さく震えて深雪が身体を捩る。
「もうしばってば。ちゃんと説明できないだろ!」
「仮装と、かぼちゃはわかった。あと、深雪の仮装は、お化けというには愛らしいこととか……」
「うぅー」
 会話の途中に煽られると、ついうっかり言いたいことを全部言えずにいつも気持ちよくされてしまうのだ。
 今日はそうなってはいけないと、深雪は身体に灯りそうになった気持ちをぐっ、と我慢する。
 それからそれ以上気持ちよくなってしまわないようにじた、ばたと暴れていると、シヴァの唇がちゅ、と頬に触れた。
「話を続けて。深雪。それで? ハロウィンは何をするんだ?」