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猟犬と少女

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「あー、嫌だ。本当に嫌だ。心底嫌だ。あいつら臭いんだよ。生臭いんだよー!」
「はいはい。文句ばっかり言ってないで、さっさと動いて」
 淡い栗色の髪をなびかせ、少女は隣で悪態を吐く『犬』を見おろした。そしてせかす様に言葉を告げる。そんな少女に対して『犬』は盛大な溜息をついた。だって嫌なんだよとまた零し、鋭い瞳で先を睨みつける。だが、『犬』の視線の先には何もいない。視界にとらえることができるのは、ただどこまでも広がる漆黒の闇だけだった。しかし『犬』にはそこにある姿が確かに見えている。そしてそれは、少女も同じだった。普通の瞳では決して見ることはできないが、彼女は『犬』の目を持っているのだ。
「貴方が行かなくて誰が行くの? ほら、早く働きなさい、ティンダロス」
「マックスウェルは俺使いが荒いなあ。泣いちゃうよ。動かないよ」
「あら。働いてくれない貴方に、わたしは興味なんてないけれど?」
 にこりと少女が笑えば、『犬』の肩が大きく跳ねた。彼は素早く立ち上がり、少女の肩を強く掴む。
「それは駄目! 俺のこと捨てるなんて許さないからな、マックスウェル!」
「なら、しっかりと働いて。わたしのティンダロス」
「俺のこと捨てたりしない?」
「もちろん。だってわたしは、貴方のことを愛してるんだから」
 すぐ近くにある『犬』のアメジスト色の瞳をじっと見つめながら、少女はふわりと優しい笑みを浮かべて見せた。肩に置かれた手に自分の手を重ね、彼女は静かに瞳を伏せる。『犬』はそんな少女に誘われるように、そっと彼女の額に自分の額を合わせた。
「俺の、マスター。俺だけの愛しい少女。お前は俺の贄だ。誰にも渡さない。捨てるなんて許さない」
「わかってる。大丈夫よ。何もかもをすべて、貴方にあげるって約束したんだから」
 優しく甘くそう告げて、少女はそっと『犬』の胸に手を当てる。
「だから、早く行って。あいつらは、もうそこまで来ているのよ」
 とんと軽く『犬』の胸を押し、少女は唇の端を釣り上げて笑った。
「――マックスウェルは冷たい」
「わたし以上に優しい人間なんていないわ、ティンダロス」
「帰ってきたら覚悟してろよ」
「ええ、待ってる。行ってらっしゃい」
「行ってくる」





100627
作品名:猟犬と少女 作家名:ましゅう