にじいろなわとび
学校の帰り道、ケイタは、長ぐつで小さな水たまりの中をポシャポシャ歩きながら、これから何をして遊ぶかを、考えていました。
友達のサトシくんをさそって、広場でサッカーをするのも楽しそうです。
だけど、昨日、ザアザアと雨がふったから、広場には水たまりがたくさんできているかもしれません。
(だとしたらサッカーできないや、つまんないなあ)
ケイタがポシャポシャ歩くたび、足元で、水しぶきがはねて、キラキラ光ります。
ケイタの長ぐつが、水を高くけりあげたとき、水のつぶといっしょに、七色の光が、はねあがりました。
虹です。
きれいな虹です。
小さな虹は、すうっと色がうすくなり、空気にとけて見えなくなってしまいました。
ケイタは、しばらくの間、じっと考えていました。それから、もう一度、水を高くけりあげてみました。
また、虹が出ます。
だけど、虹はすぐに消えてしまうので、ケイタは虹を見つづけるために、何回も何回も水をけりあげなければなりませんでした。
じきに、ふとももが疲れてきました。ケイタは、水をけるのをやめました。
「え、もうやめちゃうの? もっと続けてくれないと、困るよ」
ケイタの後ろで、声がしました。ふりむくと、すぐそばに、ケイタと同い年くらいの男の子が、しゃがみこんでいました。黒いながそでのシャツに、黒いズボン、黒いぼうしに、黒いくつの男の子。男の子は、手に、小さな黒いつぼを持っていました。
ケイタは、ちょっとびっくりしました。男の子は、いつからここにいたのでしょう。
「君、だれ?」
「ぼくはね、世界で一番の大まほうつかい、ポポロン・パパロン先生の一番弟子、ポッピだよ」
「ぼくの名前は、ケイタ。ねえポッピ、なんで、ぼくが水をけるのをやめちゃうと、困るの?」
「それはね、ぼくが虹を集めていたからだよ」
ポッピは、手にしている黒いつぼを、ケイタの目の前に差し出しました。ケイタがつぼの中をのぞきこむと、中にはキラキラした七色の光があふれています。
「虹を集めて、どうするの?」
「なわを作るんだ。虹で作ったなわでなわとびをすると、どんな人でも仲良しになれるんだ」
「本当?」
ケイタは、おどろいて飛びあがりました。その瞬間、ケイタの足元で水がはね、二つの虹が生まれて、ポッピが手にしているつぼに、すいこまれて消えていきました。黒いつぼのふちが、キラキラと七色に光りました。
「今の虹で、このつぼの中身はいっぱいになったよ。ありがとう、ケイタ。お礼に、ちょっとだけ僕のまほうを見せてあげる」
ポッピは、つぼをさかさまにして、やさしく振りました。すると、つぼの中から、虹色のなわがこぼれ落ちました。ポッピは、つぼを地面に置き、虹でできたなわを持ち、ゆっくりなわとびを始めました。
「ケーイタくん、おっはいっんなさいっ」
ケイタは、楽しくなって答えました。
「は、あ、い。ポーッピさん、あっりがっとうっ」
ケイタは、ポッピが回す、虹のなわの中に飛びこみます。
虹色のなわは、キラキラと輝きながら、軽やかにケイタの足の下を通りぬけます。ケイタの心も、なわを飛ぶたびに、キラキラと輝き、軽やかになっていきました。
ポッピは、なわを十回まわして、やめました。
「来年、まほうつかい会議があるんだ。世界中のまほうつかいが集まって、会議をするんだ。だから、それまでに、大きななわを作らなきゃいけないんだよ。まほうつかいのみんなで、なわとびをするんだ。そうしたら、みんな仲良くなって、話し合いもうまく進むに違いないんだ。これは、ポポロン・パパロン先生のアイディアなのさ」
「ふぅん。みんなでなわとびをするってことは、大きな大きななわを作らなきゃいけないんだね?」
「うん。つぼ百個分の虹を集めなきゃいけないんだよ。これで、ちょうど六十一個目なんだ」
ポッピは、あ、と叫んで、空を指さしました。ケイタが、ポッピの指さす方を見ると、空に、大きな大きな虹がかかっていました。
「これから、あの虹をつかまえに行ってくるよ。手伝ってくれてありがとう、ケイタ。楽しかったよ」
また会おうね、と言って、ポッピはにっこり笑いました。ケイタも、にっこり笑って、ポッピと握手をしました。虹色のなわとびをした二人は、もう友達だったからです。
ケイタはそれから、雨がふって虹が空にかかるたびに、ポッピのことを思い出しました。まほうつかい会議に出る大勢のまほうつかいたちが、ポッピの作った虹色のなわとびをして、仲良くなってくれることを祈りました。
皆さんも、もし、どこかで虹をみつけたら、辺りをそっと見回してみてください。もしかしたら、黒い服を着て、黒いつぼを持った男の子が、皆さんの近くにいるかもしれません。もしも、その男の子に頼まれたら、虹をつくる手伝いをしてあげてください。来年のまほうつかい会議を、ぶじに成功させるために。