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大型犬と帝人

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狂犬お断り




「いぃいざぁあやぁぁああ!!!!」



いくら懐かれたとはいえ、池袋最強はやはり池袋最強なことには変わりない。今日も今日とて自動販売機が池袋の空を彩る。赤いその大きな物体が飛んでは落ち、止まれと書かれた標識がおおよそあり得ない速度で振り回される。いつか自宅で見た大型犬とは打って変わって静雄さんは本日も自動喧嘩人形の名前を欲しいままにしていた。



わあ、今日はまた大きく飛んだなあ。



そんな感想を抱けるほどには慣れてしまった池袋に、僕は静かに息を吐く。遠くに見える静雄さんはここからでも聞こえるほどの大音量で臨也さんに向かって死ねだの殺すだの物騒な言葉を叫んでいた。それを飄々としながら笑って彼を煽る臨也さんも変わりはない。


僕はこれ以上二人に関わると非常に面倒だと分かっていたので、静かに踵を返す。深入りしたが最後、やっと非日常のいない休日がいつもの休日に早変わりなのだから。




非日常に憧れていない、と言ったら嘘になるけれど毎日が非日常だったならば、それはもうすでに日常となるように。イレギュラーな訪れはたまにの方がより一層甘美に味わえるというものだと僕は思う。



しかし、僕の足は止まることになる。
偶然目が合った臨也さんがこちらを見て嬉々としたからだ。



「お、みっかどくーん!!」



あの情報屋は本当にいらないことばかりするなあ。



がっくり項垂れる僕に向かって軽やかなステップを踏みながら、静雄さんの投げる公共物を避けながら、臨也さんはこちらに来る。逃げ出したい。正直なところ、いや別に正直にならなくても僕はこの場を逃げ出したくて仕方なかった。


臨也さんが来るなら、当然後ろの鬼、静雄さんもこちらに来る。
少年漫画であり得そうな砂煙を上げて、目を光らせた恐ろしい静雄さんが走ってきた。だめだ、わかった、僕の命運ここまでなんだ。こんなことなら園原さんと手をつないでおけばよかった。紀田くんに一発いれとけばよかったなあ。ガッデム。



「帝人くん、シズちゃんがいてちょーっと邪魔なんだけどさあ!」

「え、いや僕お邪魔でしょう。帰ります。帰らせていただきます」

「やーだもう、そんなつれない!ねえ帝人くん、噂でキミシズちゃんなんかと付き合ってるだなんていうものがあるんだけど嘘だよねえ」

「僕は男ですよ」

「いや帝人くんならなあ」

「現実を見ましょう、臨也さん」

「わかんないよ?俺なら、」

「てめえ臨也そいつから離れて呼吸すんな海に沈め滅びろ死ねいやむしろ俺が殺す」

「くそシズちゃんがいつもより饒舌だと…」

「それが何の関係が」



ぶうん、と払うように振り回す標識を交わして臨也さんはまたね俺の帝人くん!と笑うとどこかへ消えていった。傍迷惑な。対して静雄さんはというと、ぎりっと歯ぎしりをしてその場にいた。えっ。なんで臨也さん追っかけてないの。そこは追っかけるべきですよ。むしろ追ってくれないか。僕は家に帰りたい。



「…あの、追わないんですか」

「あ?・・っくそ、ああ追わねぇよ。イラつくがな」

「どうしてですか?」

「おまえがいるからだ」

「…は…はあ」

「臨也がお前の傍にいると腸煮えくりかえって仕方ねぇが、此処にゃああいつがいない、お前がいる、そうなるとお前の傍には俺しかいねえ。なら俺はお前の傍にいる。そういうことだ」



どういうことなのですか…とは聞かなかった。言っても無駄なのは前回で分かっていたからだった。前回は結局監禁は免れたが、あれからやたら静雄さんに遭遇する確率が高くなった。普段もかなりの頻度で会っているのに。



「お前ほんとに甘ぇもんな…臨也に取られてたまるかよ…」



ちょっと照れくさそうに、拗ねたように煙草をくわえながら静雄さんは僕の頭を撫でる。そこで照れる意味が分からなかった。僕はきっとこの人を理解できる日はこないのだと思う。ついでに言っておくが僕は立派に男なので、甘いわけがない。夢見すぎである。


「僕は甘くありません」

「いや甘いな…」

「お話を聞いてはくれないでしょうか…」

「おう、いいぞ。お前は甘いだけじゃなくて美味いもんな」

「この人は駄目だ…」



さめざめと泣く真似をすれば、静雄さんはびっくりして僕に詰め寄った。誰だ、誰が泣かした…!と鋭い犬歯を見せて心配そうに見下ろしてくる。あーくそう、身長高いなあ。しかも顔整ってるし。



「誰にも泣かされてませんよ」
「大丈夫なのか?」
「はい。しいて言うなら課題をしなくちゃならないので、僕は家に帰りますね・・すみません」
「ああいいぞ。俺も行く」

「……」


当然のように抱き上げられ、僕は羞恥といい知れない感情によって本当に少しだけ泣いた。それから僕の家でいつものように、後ろから抱え込まれての勉強が始まったのは言うまでもない。


作品名:大型犬と帝人 作家名:高良