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大型犬と帝人

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忠犬お断り




どうしてこうなっているのだったか。
はじまりはやはり非日常にしか思えないとみると摩訶不思議な場所である。この池袋というのは。そして、その摩訶不思議に立派に君臨している人物もまたその構造が理解できないように思考も読み取れないのは仕様なのだろう。膝を抱えて顔を埋めながら、己を後ろから抱き締めて座る大型犬のような男にひとつ冷や汗をかいた。


「……」


事のはじまりはなんてことはない。
ただ、池袋最強と名高い平和島静雄に突然襲われ、いや懐かれ、あれよあれよという間に外堀が埋まっていたのである。気づいたら携帯には静雄さんのアドレスもあるし、紀田くんには、おーいおいおいおい帝人マジ洒落になってねぇー、と渇いた笑いをされた。

そして何故か静雄さんの上司の田中トムさんとはたまにご飯を奢って貰うようになり、臨也さんには三割増しでつきまとわれ、周囲からは自動喧嘩人形のお気に入りだと言われては襲われる日々。襲われても、静雄さんによってボロ雑巾のようにされてしまうわけだが。


しかし関係は、と聞かれてしまうと困ってしまう。本来僕が静雄さんと友人になれるには非常に喜ばしいことだ。そりゃあ嬉しいもの。しかし、それを越えるとなると僕は遠慮したい。しかし、斜め上でその境界を越えたのか引き下がったのか、現状を話してみたところの園原さん曰く、それは飼い主さんのようですね…、らしい。微笑ましそうに言われたが、ものすごく微笑ましいことではなかった。冷や汗ものだった。


「竜ヶ峰」

「はい」


「ん」


ぐりぐり、と機嫌良さそうに顔を僕の首筋に埋めて満足そうに息を吐く。その息がまたたまったもんじゃなかった。耳元に生温くかかるものだから、僕は顔を真っ赤にしてまた膝に顔を埋める。そうすると少しむくれたように静雄さんが抱き締める腕の力を強めて、僕の名前を呼ぶ。なんなんだ、なんなんだ、この人は。勘弁して欲しい。


「おいこら」


「うう、ひ!」


拗ねた口調で耳の裏を舐められ僕は肩を震わせる。おかしい。誰か頼むから静雄さんの脳内を解析して僕に結果を渡してはくれないだろうか。思考が読めない。セルティさんにですら、静雄は良い奴だから!な!と言われ根本的な解決には繋がらないし。


「こっち向け、竜ヶ峰」

「やです」

「噛むぞ」

「それはもっと嫌です!」


信じられないことが続きすぎて、僕はすでに混乱中だった。噛むってどこをだ。肩か。首か。殺す気か。非日常に歓喜する以前に僕は寒気が背中を支配しており、迂闊に動けない状況。もうこの際紀田くんだろうが臨也さんだろうが、誰でも良い。この大型犬の男の人を剥がしてはくれないだろうか。


最近は学校の校門近くにのっそり立っていたりするから余計心臓に悪い。
あの平和島静雄が校門前に立っている。それだけで来良の生徒はびくついているし、先生は密かに僕に別の場所で待機するよう言ってはくれないだろうか・・とやたら物腰低く言ってくる。僕を見る度、少し嬉しそうに眉を上げる姿は本当に、忠犬のようで。


それに和んでしまいそうになるのを押さえて、僕はいつも走る。
そうすると静雄さんがついてきて、西口公園まで来たら僕は静雄さんと何分か話をし、ある時はご飯を一緒に、ある時は家まで送り届けられ、ある時は一緒にいた紀田くんと園原さんと僕にクレープを奢り、彼は満足そうに帰っていく。帰る前に僕を必ず抱き締めて匂いを嗅ぎ、その整った鼻を首筋に押しつけて鎖骨を甘噛みして、帰って行く。


その時に狩沢さんに見つかったら地獄絵図だ。
興奮しっぱなしの狩沢さんを押さえる門田さんも若干唖然としながら、僕に早く帰れ、と促すがその目が静雄一体どうしたんだ?と言っているのは一目瞭然なのだから。



「あの、静雄さん」

「あ?」

「なんで僕にこんなことするんですか?」


そう思い切って聞いてみる。
今日は日曜日だから、学校はない。学校がない日はたまに静雄さんが家を訪ねてくる。それもまた本来ありえないことだった。まるで恋人のように過ごす静雄さんとの日々にはもう慣れてしまった。慣れてしまったから、家にいる時くらいは好きにさせていた。外だったら全力で逃げるけど。



「あー………そりゃ、おまえ」


「はい?」


「お前がイイ匂いすっからだろ」


「え、えええ?」


「つうかよぉ、俺の嗅覚っつうのは鋭ぇしお前がイイ匂いなのはもう十二分に分かってんだよ。その所為で俺もなんかふらふら来ちまうんだよな。抱き締めたらあったけぇし、軽ぃし、傍にいるとなんかあんまキレねえし。すげえ。これって多分お前を持ち帰ってもいいってことだよな?」


「静雄さん自問自答じゃなく会話をしましょう」


おお、とサングラスを外して静雄さんは僕を抱き締めたまま頷いた。



「ええと、そのいいですか。僕は人間なので持ち帰ってはいけないんです」

「でもよ」

「でも、もなにもありませんから…」

「駄目か…」

「駄目です…」

「どうしてもか?」

「誘拐、駄目です、絶対」



「衣食住付けるから」

「それは軟禁っていうんですよ。犯罪ですよ」


「昼寝もいいぞ。外出るのは駄目だけどな」

「もはや監禁じゃないですか」

「おう」

「おうじゃないです。認めないでください。なにこの人こわい」



優しく止める。するとしゅんとした静雄さんが鼻面を僕の頬にすり寄せた。マジで犬だなこの人。なんだか哀れな気持ちになって、腕を後ろに回し頭を撫でればぱっと顔を上げる。嬉しそうに、竜ヶ峰、と僕を呼ぶ。単純すぎる。勘弁してくれ。ため息をついてみたら、心配そうに静雄さんがどうした?と言うから僕は項垂れてこれからの生活が決して平穏ではすませられないのだと悟った。



作品名:大型犬と帝人 作家名:高良