羽化するソプラノ
「くるしいですか」
あなたの綺麗な白い首がわたくしの愛が沢山篭ったこの掌で赤く青く色付いてゆく。くるしいですか。あなたがくるしいのはわたくしの愛が沢山篭っているからなのです。その痛みはわたくしの愛の重さなのです。くるしむあなたはいつもよりもずっと素敵です、嗚呼、わたくしはあなたがすきです。
「あたたかいですあなたの首にはきっとあなたを生かしている沢山の血液が流れているのですね、もしもあなたが息を止めたならあなたを流れるその血液全てをわたくしが飲み干してさしあげますわ。何もかも見透かすような透き通った眼球を取り出して見ればきっとそれは硝子玉なのですね、そしたらその硝子玉はわたくしのお部屋に飾ろうと思います、そうすればきっとわたくしの部屋はとても華やかになることでしょう。そしてそのしろいしろい皮を剥いであなたのその血肉と心臓と脳味噌を啜ってすべてをわたくしの胃のなかに取り込んでわたくしと一緒になるのです嗚呼とても素敵なことだと思いません?それからあなたの子宮にはわたくしとあなたのこどもがまだいるのでしたね、あなたが孕んだこどもですからそれはきっととてもとても可愛らしい子だったでしょう、もういまさら産むことなどできないですしわたくしがその子宮も大事に大事にとっておくことに致します、そうしたらいつか新しいいのちが産まれてくることがあるかも知れないでしょう」
艶やかな唇からはだらし無く涎が垂れてあなたはちいさな水槽を永遠と泳ぐ金魚のように口を開いて空気を求めるけれど酸素はあなたの肺に届かないままただ口をから抜けるだけ。硝子玉の瞳はだんだんと焦点が合わなくなってゆき喉へ与えられる圧迫感と苦しさに耐えられなくなったのか涙が一筋伝った。するとなにか言いたげにあなたの手はわたくしの腕を力無く掴む。そしてあなたは微笑んで僅かながらにくちびるを開いた。
「き、れい、に、たべ、てね、」