エッセイ
葉脈のように見える。空からまばゆい地上を見て、そう思った。水を運ぶように、道路のあわい光がゆっくりと動く。このひとつひとつの明かりにもとに、ひとつ以上のいのちがあるのだろうと思うと、不思議な気持ちがする。
海と陸との境目は鮮明で、とっぷりと暗い海はなにかまがまがしいもののようにも、こぼれてしまった多量のオイルにも見えた。よくよく目をこらすと、海にぽつぽつと漁船らしきものが浮かんでいる。一心に何かを目指すもののように、皆船首を港へ向けている。
昔、といってもさほど遠くない過去、この空からの景色を楽しめるものは、本当に限られた人々だけだった。きっと女でこの景色に何か思いを馳せた人はほとんどいないだろう。けれど今は、金さえ払えばたれだってこの景色を見ることが出来る。世界は大きく変わってしまったのだ。
想像力があることは概ね素晴らしいことだろう。けれどこの明かりの先に、ひとつひとつのいのちを想像できる人は、きっと人殺しには向いていない。