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僕とトワちゃんのこと

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 だけど、僕はその時、トワちゃんに平手を喰らわされた。べちんって。
「私を陥れるのは勝手ですが私の唯一無二の幼なじみを犯罪者にするのは止めて下さい」
 そう言われて僕は――脈ありかなと思ったけどやっぱり駄目だったや。いや、反省はしたよ? その台詞をトワちゃんが泣き笑いでもしながら言ったら、多分僕、泣いたんじゃないかな。知らないけど。

 え、何で僕がそんなにトワちゃんを泣かしたいかって?
 違うよ、絶望に噎び泣いて、僕という最後の希望まで見失って、大好きな人間に心底絶望して、顔と言わず身体と言わず出るだけの液体を出して垂れ流して身体全体で泣いている所を、背中から抱きしめてためつすがめつ眺めてデジカメで写真を撮って、一生分の涙を流しきるまで見届けたいんだよ。
 だってね、トワちゃんこそ僕の生きる希望で、正義で、常に正しくて、僕にない物を持ってる子なんだから。

 実は僕、三歳まで人の心ってものが分からなかったんだ。
 これもラノベか何かみたいで出来すぎだから話すのやなんだけど、実際は僕、トワちゃんより一個上なんだよ。
 それで、健康になってから最初の友達がトワちゃんだった。
 あの頃のトワちゃんは良く泣く子で、僕はそれが不思議で、毎日のように泣かせていた。あれはまだ、お気に入りのボールとか隠すくらいの可愛い頃。
 木に吊しても泣くし、毛虫を頭に乗せても泣くし、半纏の背中に雪の固まりを泥と一緒に突っ込んでも泣くから、寧ろ何をしたら泣かないんだろうと思って。
 ある時に、勘違いで近所の人に怒られたら悔しい悔しいと丸一日掛けて泣いたから、きっと人間関係の方が効くのだろうと、トワちゃんの友達が全部絶交するよう仕向けた。
 トワちゃんは蛙を生のまま食べるとか、蛇の鱗が生えた蛇女だとか、今思うと可愛い嘘だけどね。
 段々エスカレートして、トワちゃんを幼稚園の友達と絶交させたり、トワちゃんが言う訳ないような口汚い悪口を乱暴な子に話してトワちゃんを殴らせたりするようになった。
 あるとき、何だったかな、喧嘩して、トワちゃんが大事にしていた玻璃のオルゴールを持ち出して、目の前の庭石にぶつけて割ったんだよ。
 ステンドグラスの綺麗な奴でね、破片が四方に飛んだんだ。
 そしたら普段うわんうわん泣くトワちゃんが、ガラスだからけのその敷石の手前にべたんと膝を付けて、ぼろぼろと涙を零して泣いたんだ。
 その時、僕の心臓に、きゅうんとした物が突き抜けた。立って居られない程に膝がぶるっと震えて、同じように座り込んでしまった。
 黙って涙を流しながら、両手を傷だらけにしながらオルゴールの破片を集め出したトワちゃんに、胸が高鳴って、今にも叫び出しそうで、お腹の奥がゾクゾクするような感じがして、僕は今度は何の病気に罹ったんだろうと思った。
 そのオルゴールを集める手で、自分の何かも掻き集めて欲しいと思った。この子がもっとボロボロになった所を、抱きしめたいと思ったんだ。
 それが愛しさとか性欲とか、何かそういう名前が付くより前に、見つけた僕の両親が半狂乱になって、二人で病院に連れて行かれたけど。
 後に、そのオルゴールが今は居ないトワちゃんの両親からの誕生日プレゼントだってのを聞いて確信した。
 トワちゃんの手から、そういうプレゼントとか人脈とか言う、あのオルゴールのようにトワちゃんの手から大事な物を抜いて行けば、またあの顔で泣いてくれるんじゃないかって。
 僕が、人が大好きなトワちゃんから、全ての絆と希望を奪い取って、何もなくなった背中を蹴り上げて突き飛ばして、自慢の髪や身だしなみにさえ気を使えないボロ雑巾のようになって僕だけに縋り付くのを、一回谷底に突き飛ばしてから、誰よりも愛しく抱きしめたいと思ったのはその時からだ。


作品名:僕とトワちゃんのこと 作家名:刻兎 烏