0円レストラン
男は促されるままに席についた。
「お飲み物は何になさいますか?」
「とりあえずビール……」
ビールが運ばれてきた。箸と里芋の煮物が入った小鉢もテーブルに置かれる。
「これは何?」
「はい、それはお通しでございます。メニューはこちらをご覧ください。ご注文がお決まりになりましたら、お呼びくださいませ」
メニューは手書きだった。新聞の折り込みチラシの裏を使っている。
ビール 0円
肉じゃが 0円
白御飯 0円
お漬物 0円
「味噌汁はないの?」
「はい、本日は品切れとなっております」
「どうせ作るの面倒くさかっただけだろ? あぁ、まったく……」
夫は妻に言った。
「子供じゃないんだから、家の中でレストランごっこみたいなこと、やめてくれよ……」
「だってあなたってたまにしか帰ってこないんだもん。イヤになっちゃう。でも旦那だと思うから腹が立つのよね。ここがレストランでお客さんが久しぶりに来たってことにしたら、あなたに優しくしてあげられそうじゃない?」
「それにしても全部0円って、そんなレストランないだろ?」
「うん。いいの。あなたに毎日来てほしいから……。ね?」
(おわり)