レディ.ガーデニアはチョコレィトがお好き
アギハの好物はチョコレートだ。
それを見つけるなり彼女は、行儀悪く包みをビリビリ破り捨て、こぼれる中身を手づかみで口に運ぶ。暗い土色の塊を白い犬歯で噛み潰し、幼い少女は恍惚とその甘さに酔いしれる。
ウメはテーブルに肘をつき、そんなアギハを眺めた。
そして、彼はいつものように言う。
「おなかいっぱい食べるんだよ」
アギハは顔も上げずに、黙々とチョコレートを咀嚼する。溶けた欠片が膝に落ちるのも構わず、冷たい床に積まれた『ごちそう』を喰らい尽くす。呼吸すらおざなりのして、彼女は食べた。薄くて硬いソレ、ぐにゃりと柔らかいソレ、腐りかけたソレ、真紅の瑞々しいソレらを、アギハは裂き、拾い、千切り、しゃぶり掬い転がし、呑み下した。食べられる部位を粗方たいらげると、指や爪の間にこびりついた赤黒いゼリーをきれいに舐め上げる。床に零れた一滴も残さないよう舐め取っていく。
床の上にはくすんだ残骸と、アギハだけが残った。アギハは満足そうにゲップをすると、膨れた腹をさすりながら、ゆらりと立ち上がった。
たたた、テーブルに駆け寄ったアギハを、椅子から立ち上がったウメが抱き上げる。
「たくさん食べたね。おいしかった?」
ウメの問いかけに、アギハは答えない。代わりに何度もうなずき、紅く濡れた唇でウメの瞼にキスをする。ウメはくすぐったい、とはにかんで、彼女のちぃさな頭を撫でた。二人はクスクス笑い、部屋の出口へと歩き出す。
「アギハ、また服が汚れたなぁ。今度はどんなのがいい?・・・・・そう!それじゃあ今日は思い切って遠出をしようか。・・・うん、ついでに夕食も。街には若くて美味いのがいるよ」
二人は親子のように、笑いながら歩を進める。
冷たい床の上には、くすんだ残骸だけが残った。
作品名:レディ.ガーデニアはチョコレィトがお好き 作家名:みた子