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ドライバーズ・ハイ

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二人で車に乗っていると、ただでさえ少ない会話がもっと少なくなる。
外は夜だ。夜というより、闇。
都会から遠くはなくても山の夜は純度が高くて、朝なんてこないんじゃないかと思う。
来ても僕の分の朝はない。そして、多分彼の分も。

気が付くとスピードメーターは結構な数字をさしていて、見るんじゃなかったと後悔したが遅かった。
彼はといえばまったくスピードを緩める気はないらしい。
こんな事はたまにあって、それはいつも二人でいるときだった。
他の人も一緒のときなんかはこんなスピ^―ドは決して出さないで安全運転なのに、
突発的に二人になったときには彼はこういう顔をする。
僕の知らなかった顔、他の人はもっと知らない顔。もしかしたら、見てはいけなかったはずの顔。

そんなに一緒にいる時間を早く終わらせたいの?
それとも、そういうの全部すっ飛ばして、何もかも終わらせちゃいたいの?

我に返ったいつもの彼なら、笑って「そんなことあるわけないよ!」って言ってくれるのだろう。
それを僕が望んでいようがいまいが関係なしに。
でも今なら、その答えは違うかもしれない。
最も、僕は口を開いたりしないけど。

白い横顔は、表情がない。
目も真っ暗な道とわずかに照らすライトを映すだけで、色を変えない。
別人のようだけど、これも確実に彼なのだと思うと、そして少なくとも僕が何かの例外的に知っているのだと思うと、確かに高揚する気持ちがあった。
好きか嫌いかと言われるとわからないけれど、恋ではあるんだと思う。
彼自体が、例外、だ。
それに慣れない僕は、もどかしくて、動揺して、ときにその原因となる彼を憎んでみたり、する。
累積票が有効ならばもう随分それはかさんでいるような気もする。

カーブが続く。
とり憑かれたようにハンドルを切り、スピードを上げる彼はこちらなんて見ないままで、口を開いた。
さっき話してからは長い時間がたっているように思うけど、多分そんなことはないのだ。
時間の流れがおかしい。彼を中心に、多分磁場は狂っている。


「今、事故ったらどうする?」

「死んじゃうだろうね」


だって、時速はもうさ。
答えを聞いても、スピードを緩めない彼に僕は少し笑った。
おかしいのが明らかに普段常識人をやっている彼のほうだという事実が滑稽だった。
しかしそんな返事も反応もどうでもいいのだろう、彼は少ししてまったくズレたタイミングで言葉をつなげた。


「すげぇ、誰よりも憎んだり、する?」

「…しないよ」


それは少し答えるのには時間のかかる質問だった。けど、躊躇いは一瞬で、確信はあった。
それを聞いて彼は初めてこちらを、憎んでるのはそっちでしょう、と思うような目で見た。
苛ついたように踏まれるブレーキと、耳障りな音。
車が止まって、彼はハンドルに突っ伏すような形でもう顔をあげなかった。


「じゃあ、どうしたらいいんだよ」


行き詰った彼の声に呼ばれた夜が、狭い車内を侵食していく。
手を伸ばして触れる彼の温度を僕の指先は感じない。現実感はとうの昔になかった。


ほら、やっぱり朝はない。僕の分も、彼の分も。
そのことを自覚しても、僕らはもうここから引き返すことはできない。


<終>
作品名:ドライバーズ・ハイ 作家名:裏壱