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ウェイティングウェディング

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 目の前をしずしずとウェディングベールが這っている。緻密な刺繍の施された純白のドレスとともにヴァージンロードを進むそれが奇怪な生き物のように見えた俺は吐き気を堪えるのに必死だった。
 機械的に祝福の音を奏でるパイプオルガンのCD以外に何も聞こえない、気味の悪い静寂。
 一番その女に近いところに立っていた俺は、そのドレスとヴェールをまとった女がちらりと視線を投げて通り過ぎた直後足を伸ばしてそれを踏みつけた。
 ずる、とヴェールがずれる。
 女が重力に従って後ろへとかくんと引っ張られ、形式通りに腕を組んでいた隣の男に捕まろうとして二人してよろめく。ざわめく。
 見るからに緊張していた男は想定外のハプニングに混乱したらしく、不意に体重をかけられて見事にすっ転んだ。あともう少しで到達する筈だったところで澄ましていた雇われ神父も、何事かと祭壇から身を乗り出している。
 軽くピンだけで留めてあっただけらしいヴェールが真っ赤な絨毯の上に落ち、自分の白いパンプスが縺れてそれを踏みにじった。何だ、簡単に外れるもんなんだな、それ。もっとしっかり髪に留めてあるのかと思ってたよ。
――ああ、あんたにはそっちの方がお似合いだ。
 無様に泣き出すのかと思えば、鬼のような形相で俺を睨んでいる。……その顔が見たかったんだ、俺は。犯人が俺だと一発で判るくらい、あんたも自覚はしてたんだ。生涯忘れられない一日になっただろう?
 満足した俺は首を絞め上げていたネクタイを乱暴に緩め、ボタンをひとつふたつ外しながら参列者を押し退け騒然とするギャラリーが我に返る前のチャペルを後にした。
 罪を重ねた従姉の結婚式におとなしく出てやるような男に見えたか、俺が。二人して地獄に墜ちるしかねぇんだよ。
 この後ひっきりなしに鳴るであろう携帯の電源を切り、その手でスーツの内ポケットからまさぐり出した煙草に火を点けると煙が秋空に溶けていった。その様を目で追いながら、俺は目を細める。
 ああ、今日はなんて。
 結婚式日和なんだ。