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あれは幻覚じゃないはずだ。
その日飲んだのはビール一缶。いや、幻覚であってほしい。

昨夜2時ごろの事だった。
友人と、夜中にくだらない話で盛り上がっていた時。
ベッドに座って缶ビールを傾けながら、他愛もないジョークに笑っていた。

ワンルームマンションの僕の部屋は当然押入れは狭く、片付けきれない衣服、ジャケットやコートなどを壁に張った棒にぶら下げている。
先日買ったばかりのテーラードジャケット。安物だが光沢のある黒地の生地のポケットには赤く縁取りが付けられ、なかなか気に入っていた。
電話に相槌を打ちながらそれを眺めていた僕は、ふと異様なものに気づいた。



片袖から手が出ている。



数秒間見入り、「おーい?」という友人の声で我に返った。
「あ!おい!大変だ!」と叫んだ瞬間には手は徐々に袖に入って行き、見る間にゆるゆると指先だけになり、袖先の中へと消えていった。
指は若干節くれ、黒い産毛が目に付いて、少し弛緩していたが血色はあった。
明かりの関係もあるだろうが、それはみるからに、生きた男の手だった。

その後電話で友達に付き合ってもらいながら、ジャケットをおそるおそるめくったが、 当然何かがあるはずもなく、結局恐怖に駆られた僕は友人を4時ごろまで電話につき合わせてしまった。

なけなしの小遣いで買ったジャケットを、気味が悪いとはいえ簡単に捨てるわけにもいかず、柄にもなく神社などに持ち込んでみたが、形通りの簡単な儀式をされるばかりでとてもじゃないが安心などできるわけもない。

数日悩んだ末、僕はジャケットを捨てた。

作品名: 作家名:劉 裕介