朧木君の非日常生活(13)
「最後に言いたいことがあるんだ。桔梗、聞いてくれるかい?」
「うん」
そう言う、座敷ちゃんの身体は朧気に霞み始めた。
淡く、儚く、とても綺麗な真っ白な振袖に服装を変えて。
「僕は、とても後悔しているんだ・・・・・・鎌鼬村を裏切ったことをね・・・・・・。僕のせいで桔梗、君をこんな目に会わせてしまった。とても滑稽だ。僕が一番滑稽だ」
「・・・・・・うん」
「でも、桔梗。また君に会えてよかった。このまま君に会わずに、鎌鼬村に赴かなかった方が後悔しているだろうね」
「・・・・・・うん」
「僕は、とても弱い人間だよ。実に弱い。口では色んなことを言える。けで、本質的な部分がことごとく弱い」
「・・・・・・うん」
「こんな僕を許してくれ、なんて言わない。いや、言えない。許さなくてもいい、憎んでくれたって構わない」
そう言う蜻蛉さんの目には涙が浮かび始めた。
とても純粋に透き通っていて、綺麗な涙だ。
喜劇にも悲劇にも捕われていない、涙。
「・・・・・・うん」
座敷ちゃんも同じだ。
綺麗な涙を流している。
朧気に霞んでいても分かる。
その一筋に描かれた涙の意味が。
「・・・・・・桔梗」
「・・・・・・うん」
蜻蛉さんは、伝えたかったのだろう。
座敷ちゃんは、答えたかったのだろう。
「一つだけ、最後に言わせてくれ」
「・・・・・・うん」
たった一つの言葉を。
たった一つの思いを。
伝えたかっただけなのだろう。
飾らなくたっていい。
ありのままの想いを。
作品名:朧木君の非日常生活(13) 作家名:たし