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【DRRR】月夜の晩にⅡ【パラレル臨帝】10/31完結

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5.ウサギ泣く十三夜



その晩はまだ眠そうな彼を連れて東京タワーに上り、夜の街を練り歩いてから、お台場へ回って海に出た。
月は浮かんでいるのかも知れないが、薄っすらとかかる雲に閉ざされてその光は届かず、暗い中を人工的な明かりを頼りに、真っ黒なさざ波の音を聞きながら過ごした。

次の晩は少し遠出をして東京都内でも田舎の方面に行き、夕暮れの森を散策してから山村の民宿のような所で食事を摂った。
帝人の海よりも深い蒼く澄んだ瞳は、夜の暗がりの中でも周りの景色は見えているらしい。さすがに夜行性と言うだけはある。
けれど、暗い中で観光できるところなど少しだけで。

その次の晩、臨也はもう観光地を考え付けなかった。

「ねぇ帝人くん、どこ行きたいー?」

他の人間の知らない観光スポットというなら沢山知っている。何度も遊ぶために付き合ってやったネット上で知り合う相手を案内して回ったアンダーグラウンドなスポットだ。
そこには様々なタイプの人間がいるし、それは確かにこの人間社会というヤツを知るには有意義な場所だったかもしれない。が、価値観も善悪も混沌としたごちゃ混ぜの世界は、この小さな来訪者を連れて行くにはあまりに似つかわしくなかった。
そもそも、臨也は必要以上に他の人間と帝人を会わせたくはなかったのだ。
だんだんと少なくなる残日数は、元々強かった独占欲を更に高めていく。
あと、3日しかなかった。

「外、雨だしさー。俺こんな日は自宅にいるのが1番好きなんだよねー」

大きな窓からどんよりと暗い外を見上げていた帝人は、振り返ってソファーにだらしなく寝そべる臨也を振り返った。
今までなら彼が起きてくる時間には夕暮れのオレンジ色をしていた空は、もう夜であるかのように真っ暗な様相をしている。

「じゃあ、臨也さんが自宅にいたらすることを教えて下さい」
「……俺が、すること?」
「はい。ここがどういう環境の世界なのかは、一部でしょうが随分見せてもらいました。それも重要なんですが、もっと僕は、ニンゲンが何を考え、どのように生きているのかが知りたいんです」

ここ数日、観光地に行ってから寝るだけの生活をしていたワケではなかった。帰宅すれば食い入るようにTVを見たり、映画を見たりして、帝人は勤勉に情報を集めていたのだ。
でもそれでは足りない、と彼は言う。

「……綺麗なものじゃなくて、汚いものも、偏見に塗れたものも、間違っているものも、僕は見たい」

臨也が、意図的に与える情報を絞っていることは、帝人も気付いていたらしい。
その視線が痛いほどに物語る欲求は、初めて見た時から1つも変わらずに臨也を突き刺す。
どちらかといえば、変わってしまったのは臨也の方だ。
本来、人間観察のために、嫌がられること、憎まれること、恐怖に落とすようなこと、絶望を見せることを嬉々としてやってのけることの方が得意な男だ。綺麗なものなんてわずかしかない、汚くて偏見に塗れて世間一般から見れば間違った世界が、この男を取り巻いている本当の世界であり、本来この男と一緒にいれば嫌でも見せられる状態なのだ。
だからこそ、この数日、帝人が来てからの綺麗さの方が異常であると言える。

「……」

二の句を告げられなかった。
臨也の得意分野だ。「それならとことん、君に新しい世界を見せてあげる」なんて嘯いて、さっさと連れ出してしまえばいい。そうすれば彼の希望通りになるし、臨也は今まで見た喜ぶ姿だけでなく、嫌悪や拒絶、憎悪、はたまた新たな欲求や感動かもしれない、どちらにしろ、見たことの無い葛藤する帝人を観察することが出来る。
けれどそれを、葛藤しているのは臨也の方だ。

「……俺の理想を押し付けるようで悪いんだけど、俺は君に綺麗でいて欲しいのかも知れないね。確かに、君の顔が泣いて歪む姿を見たいのに、そんなことしたら傷つくのは俺だとも分かってるんだ」

葛藤をしている自分を客観的に見て嘲笑ってみるが、それは自分の心内状態で。
それから逃げるように毎日外へ連れ出していたけれど、もう逃げる道もなくて、時間もなくて。
何より臨也の次の言葉を待つ帝人の視線は、呪縛のように絡み付いては心を離さない。
正直きっと、楽しすぎたのだ。
この2人で過ごすキラキラとした時間が。

「俺は、うんざりしてた。くそったれな情報屋なんて仕事にも、好き勝手に変わっていく汚れた街も、そこに置いて行かれないようにしがみ付く自分も。なのに、君が落ちてきたりするからっ」

歪んで引き上げられた口角は人を馬鹿にしたように酷薄な笑みを形作るのに、額に手を置いたその隙間から見える眉はきつく寄せられている。
臨也の言葉の語尾が、一瞬泣きそうなほど上ずった。
本当は気付いていた自己内葛藤を改めて他者から指摘されたことで、一気に追い詰められる。
それまで落ち着いた様子座っていた臨也は、瞬時に沸点へと達したようだ。
言葉が口から飛び出す。

「君が落ちてきたりするから、君が死んだ目をしてるなんて言うから、俺が自分を見失うなんて!」

いつも高みから一歩引いて周囲の環境を弄ぶ男が、自分のことすら分からない。
ソファから立ち上がって叫んでみたが、結局どうすればいいのかわからなくなって再び柔らかなクッションに落ちた。両手で額を押さえて顔を隠し、泣けばいいのか怒ればいいのかわからずに、小さく丸くなる。幼い子供のように。