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ハロウィンの夜の殺人

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10月24日 オーデル・スクール


「はい、ここ覚えといてね」
心理学の教師であるドランが書類を持って教室を後にした。
「ドラン」
背後から名前を呼ばれドランは振り返る。
彼を呼びとめたのは同僚のアマンダだった。
「なんだ?」
「一週間後のハロウィン・パーティーの話なんだけど」
「そう言えばもうそんな季節か」
「ええ、実はスミスがダンスホールの用意で手間取ってて」
「つまり手伝えってことね」
「まぁ、そういうことね」
「分かったよ」
「ありがとう」
アマンダは金色の腕時計を確認した。
「もう行かなきゃ」
アマンダはドランに背を向けると廊下を歩いて行った。
「色男はツライねぇ」
ドランはため息を吐き出すと職員室前のダイヤル式電話に向かった。
自宅の電話番号をダイヤルする。
「クレアか?悪いけど今日の夕食運んで来てくれない?」

放課後ドランはハロウィン・パーティーの会場となるダンス・ホールに向かっていた。
その途中の通路にはハロウィンを想起させるオブジェがいくつも並べられている。
ドランはダンス・ホールの前にたどり着いた。
一度深呼吸をしてからゆっくりとダンス・ホールの戸を開ける。
「来たぜー!って……」
突然のドランの訪問に驚いた人物が二人。
「あれっ……ドラン?」
ハロウィンの飾り付けをしていたダナエとスミスが振り返った。
「なんで君がここに?」
スミスが驚きに満ちた表情で言った。
「え……?だってあんたが手間取ってるから手伝えって……」
「全然手間取ってなんかいないわ。万事順調よ」
ダナエが話を引き取った。
その表情は疲れからかどこか引きつっていた。
「じゃあつまり俺は用なしってこと……?」
ダナエとスミスは顔を見合わせた。
「手伝ってくれるのは嬉しいけど、君にも仕事があるだろうし」
スミスが申し訳なさそうな表情で言った。
「ええ、私たちは大丈夫。それよりも誰がここに行けって……?」
「えっ?アマンダだけど」
その瞬間ダナエの表情に影が差した。
「アマンダですって……?」
「ああ、そうだけど。何か問題あったか?」
「いや別に……」
ダナエはあわてて表情を元に戻した様に見えた。
「もし手伝ってくれるならあれを二階通路にぶら下げてくれないか?」
スミスがダンス・ホールの隅に置かれたジャックオーランタンを模したオブジェを指差した。
「分かった」
仕事をもらえたことが嬉しくてドランは急いでで仕事を開始した。

「今日はこれくらいかな」
スミス達は自分たちの飾り付けを見回した。
「こんなもんじゃないかな」
「上出来よ」
三人は互いの仕事を褒め合った。
しばしのトークを終えるとドランはもう戻ると二人に告げた。
「じゃあ」
ドランは二人に手を振るとダンス・ホールを後にした。
疲れた姿で校舎に戻った。
「あら、ドラン」
入口でドランを迎えたのは同僚のミッシェルだった。
「一体今まで何してたの?」
「スミスの手伝いだが……何か問題でもあった?」
「クレアちゃんずっとあなたの教室で待ってるわよ」
「マジかよ!」
ドランは矢に弾かれた様に走り出した。
目指すは自分の担当するbクラス。
怒ってなきゃいいけど……。
やれやれとため息をついてからドアを開ける。
頭に何かが落ちてきた感触。
そして急に煙たくなる空気と視界。
「ゲホッゲホッ」
咳き込むドランを嘲笑う人物が……。
「あははっ。引っ掛かった」
「ク……クレ……ゲホッ」
「ハァイ、ドランお元気?」
クレアが挑発的に言った。
その表情はニヤリと笑っている。
「こんの野郎ぅ!」
ドランは素早く動くとクレアを捕まえた。
「ちょっと、離しっ、離してってば……あははははは!」
ドランがクレアの体をくすぐっている。
クレアは必死にドランの手から逃れようとするが、その望みは叶わない。
「許してほしければ、謝れぃ」
ドランが殿様の様な口調で言った。
「だ……誰がっ……あはははは……ごめ……くひひっ……ごめんって……あははははは……も、もう駄目……あははっ……ごめんなさぃぃぃ!」
「よろしい」
ようやくクレアの体が解放される。
体が床に倒れる。
「もう、ドランったらレディーに対する礼儀がないわね」
クレアが呆れた様子で立ち上がった。
「それはこっちのセリフだ、黒板消しトラップなんて幼稚なことしやがって」
「あらぁ、あたしにそんな口きいて良いのかしら?」
クレアが不敵に笑った。
「な……なんだよ」
「忘れた?あなたの晩御飯……私の手中にあるのよ」
「そうだったー!」
「あなたこそ私に謝らないとまずいんじゃないの?」
「俺は絶対に、負けない……!」
「あなたの好きなタマゴサンドウィッチよ」
「ごめんなさい」
「よろしい」
クレアはしばらく優越感を味わうと、カゴをドランに渡した。
「はい」
「ありがとさん」
近くにあったイスに腰かけドランは舌舐めづりをしながら包みを開けた。
「あれっ、俺こんなに食えないぞ」
「まったくバカね、私も食べるのよ」
そう言うとクレアはサンドウィッチを取り出して食べ始めた。
「なるほどな」
ドランもサンドウィッチを食べ始める。
「しかしよく今まで腹が減らなかったな」
「減ったに決まってるでしょ」
「ならなんで先に食べちまわないんだよ」
「一人で食べてもつまらないし」
「要するにさびしいってことだ」
「そ、そんなことないわよ……!」
「なんだよぉ。照れることはないじゃないか。ほら今からたくさん遊んでやるぞぉ」
ドランがクレアにジャレつく。
「あーもう、気持ち悪いなぁ!」
ドランを引き離そうと奮闘する。
しかしその顔はどことなく嬉しそうだった。
「気持ち悪いはひどいぜぇ。クレア姫様。あなたのナイトじゃないですか〜」
「なんであんたがナイトなのよ」
「姫は否定しないんだ」
「……」
クレアがこれに切り返せずしばらくの沈黙。
そしてどちらからともなく笑いだした。
ドランはクレアから体を離すとイスに戻った。
「まぁ、お前はかわいいから、姫も夢じゃないかもな」
ドランがからかう様に言った。
「お世辞でも嬉しいわよ。ドラン王子」
クレアもニヤリと笑って返す。
「おっ、分かってるじゃないか。さすが姫」
そこでドランは思い出した様に続けた。
「一週間後にハロウィン・パーティーをやるんだけど、お前も来る?」
「何よ。私がいるといけないことでもあるの?」
「つまり返事は「行く」か」
「もちろん。断る理由はないわ」
「まっ一週間後を楽しみにしとけよ」
ドランは空を見上げて呟いた。
「『トリック・オア・トリート』お菓子かイタズラか、か……」

作品名:ハロウィンの夜の殺人 作家名:逢坂愛発