お腹が、痛い
「で、俺にどうしろと?」
ボクの独り言に、律儀にも返事を返したのは幼なじみの紗耶。
一人称こそ「俺」だけれども、レッキとした女だ。
余談だが、先月、ボクは紗耶にフられた。にも関わらず昔と同じ関係で居られるのは、彼女が下らない気遣いなどしない素晴らしい人間だからだろう。
「ごめん、嬉しいけど、…ダメなんだ。あんたには、俺なんかより、もっといい人がいるよ。ま、ドンマイ!」
そう言われたとき、失恋したというのに、すがすがしい気持ちになったのをよく覚えている。
(そして諦めの悪いボクは Don't mind で気にせず彼女を想ってる。)
「で、俺にどうしろと?」
「紗耶、保険委員なんだろ?そんぐらい自分で考えろって」
「…なんかムカつくから放置で!決定!」
そう笑って駆け出すあいつを追いかけ、走っているうちに、腹痛はどこかに消えていた。
秋風の心地よいこんな季節には誰だって、自分がこのあとずいぶん面倒なことに巻き込まれるとは思わないだろう。
作品名:お腹が、痛い 作家名:アレキザンダー・ジョン