この恋は死なない
すごく似ていて、とても遠い。
眼下に広がる街並みを見ながら、遊理は云った。
その言葉が意味するところを、そのときはまだ理解できなかった。
遊理と親しくなったのは、二年生になってからだ。それまでもその存在は知っていたけれど、どこか遠い、自分とは違う世界の人だと思っていた。
遊理はかわいい。
天真爛漫という言葉を、遊理で知ったと云っても過言ではない。
二人して押し付けられた図書委員の仕事を終え、だらだら歩きながら帰った。
帰り道にあるだらだら坂から、天気の良い日は富士山が見えるのだと教えてくれたのは遊理だった。
「夏希先輩がね、」
その言葉に心臓がはねた。
「まことは髪の毛染めるのじょーず、ってほめてたよ」
夕焼けの向こうでカラスが鳴く。
「なんでゆーりがキンパにしたか知ってる?」
遊理の言葉の意図がわからなかった。夏希先輩の髪の毛と、遊理の髪の毛。どういう繋がりなんだろう。
「まこがキンパ好きなのかなあと思ったからだよ」
いつかあった、女の子が病気で死んでしまうドラマを見てから、遊理はまこと呼ぶようになった。
それは残されいく男の名前らしい。
あのドラマを見た次の日、泣きはらした目をして登校してきた遊理を思い出した。
「いつかまこに、不毛な恋はしないっていったけど、実はずっとしてた」
遊理は笑った。
「この恋を死なせないで、まこ」
「本当は、夏希先輩に会わせる前から予感はあったんだ。まこが夏希先輩好きになるだろなっていう。でも、会わせちゃった」
「笑っていいよ」
誰が遊理を笑える?
すごく似ていて、とても遠い。
遊理の言葉は自分たちを表したものだった。
笑う代わりに、細い指を握った。
「死なないよ、遊理の恋は死なない」
遊理はまた笑った。それが泣き顔に見えた。