カナとカズ
「ん、どれ?」
とっても優しいカナちゃんは、ニコッと笑顔でこちらを振り向いてくれた。手渡したワークブックをしばらく眺めたあと、可愛らしい鉛筆を手にしながら一言、こう言ってくれる。
「この問題なら、こうやって解けば簡単だよ! 見てて」
「うん!」
こういう風に難しい問題を訊きにくるのは、実は初めてなんかじゃない。何度も何度もカナちゃんのそばに行って、説明を聞くフリをしながら居座っていることが多かった。
「ほら、ここがこうなるから、答えはこうだよ」
「……ああ! なるほど、そうなるんだ」
「わかった? カズ」
「うん、ありがとう、カナちゃん」
カナちゃんに名前を呼ばれると、ちょっとドキッとしてしまう。カズって呼ぶのはカナちゃんだけに許された特権みたいだと思って、途端に頬が赤くなるのを感じた。
「おーい、要(かなめ)! ドッヂ人数足りないんだけどくる?」
「あ、行く行く! カズはどうする?」
「んー、私はいいや。翔子たちとお絵かきしてる」
「そっか、じゃあ僕、行ってくるね」
カナちゃんが行ってしまって私が一人になると、翔子がこちらにやってきた。
「和子(かずこ)、また要くんに問題訊いてたの?」
「うん、また分からないところがあって」
「二人は仲良しでいいよね~」
カナちゃんの机の上には、さっきまでカナちゃんが使っていたピンク色の鉛筆が、そのまま転がっていた。
(私があげた鉛筆、ちゃんと使ってくれてるんだなあ)
「カナちゃん」って女の子みたいに呼んでも全然怒らないし、本当にカナちゃんは良い子だ。