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里海いなみ
里海いなみ
novelistID. 18142
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【未完結】学校の怪談

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「ねぇ、職員室電気点いてるよ?」

階段を下りていた蛍が呟いた。
その言葉に廊下の奥にある職員室には煌々と灯りがついている。四人は足を早め、助け(家に送ってもらうため)を求めてドアを開けた。

「失礼しまーす」

律儀に声をかけつつ、夏乃がまず中に入る。教師はどうやら全員いるようで、机に向かった状態で話し声がまったくしない。会議中かと不審そうに四人が四人とも首をかしげる。
すると、教師が全員四人のいるドアのほうを向いた。一拍置いて

「ぅひょぉ!?」
「うぁ!」
「げっ…」
「……………え?」

四者四様の驚きの声をあげる…いや、驚きの声というよりは奇声というほうが正しいような気がする。
教師全員があわせてこちらを振り向いた事に驚いたのではなく、ほかの事に驚いたのだ。その、他の事とは、教師全員に顔が無かったのである。顔の凹凸はあるものの、色が無い。穴が無い。本来人間の顔というものを形作っているすべてのものが無かったのだ。

「失礼シマシター」

へらりと愛想笑いを浮かべて夏乃がドアを閉めようとする。しかし一番近くにいた作業服を身にまとった教師が近づいてくる。凹凸のみのその表面に生えたヒゲと作業服から、用務員の東 広行(49)だと判断できる。いつもならヒゲの生えた顔で熊のように豪快に笑う人なのだが凹凸のみの顔ではそれもわからない。

「ちょっ、こっち来て…!」

逃げようと慌てた四人の耳に、鈍い何かをぶつける音が届いた。恐る恐る顔を音の方向に向けると、のっぺら東(確定)は足を抱えてうずくまっていた。

「うわ、弁慶さんやっちゃった…」
「痛っ!ぶつけてないけどなんか痛っ!」

どうやらそばにあった低い棚の角に足をぶつけたらしい、口がないはずののっぺら東野口からうめきが聞こえてきそうで微妙に嫌だ。蛍と冬耶はその惨状に目を背け、幸樹は自分の足を押さえて跳ね回っている。
ほかの教師陣も立ち上がっては転んだり足をぶつけたり仲間同士ぶつかったりしている。

「……もしかして、見えてない?」
「ヤバい、面白い!」
「え、ま、あれ、松崎?こっち来てる!」

夏乃の言葉に全員が再び職員室内を覗き込んだ。転びまくっているのっぺら教師の中、一人だけがまっすぐ四人に向けて歩いてきていた。
そののっぺら教師の頭には髪の毛が無く、紺色のジャージを身に着けていた。四人には、かなり身近な教師、松崎 文俊(43)だとわかる。

「やっぱり頭反射してるよ!?」
「後頭部と顔の表面の区別がつかないもん!」
「んな事言ってる場合じゃねぇだろうがよ!」

反射…というわけではないだろうが、明らかのあののっぺら教師の周りが明るい。特に蛍光灯の当たる頭部分が。のっぺら松崎(確定)は剣道部の顧問で、防具を年中つけていたためハゲたらしい。
ズカズカと大股で歩み寄ってくる松崎を見て、何かを思いついたように幸樹の目が光った。進行方向の横にずれ、サッと足を出す。

「よし!そのまま来い!」
「バッカ、引っ掛かるわけ…」

ない、という言葉が続くことは無かった。どさっ、という重い物が落ちる音と幸樹の「よっしゃ!」という声が職員室に響いた。気まずい沈黙が幸樹以外に広がる。
女子三人から痛々しい視線を受けるものの、のっぺら松崎は身を起こそうとしない。やったか、安堵の息をついて職員室を後にしようと背を向けた。しかし、それが油断となった。

「きゃ!?」
「蛍ちゃん!」

一番後ろにいた蛍の足首を、松崎の手ががっちりと握っていた。松崎の指先と蛍の足首の色が変わっていることから、かなりの力が込められているのがわかる。一気に蛍の顔色が青くなった。そんな様子を見て、「セクハラー!」なんて叫びながら夏乃が足を振り上げる。
が、意に介す事無く顔を上げないままに足首を折ろうとするかのごとく手をひねる。蛍の顔が苦痛に歪んだ。

「松崎!覚悟!!」

掛け声をかけつつ夏乃が横たわったその背中の中心に向けて足(特にかかと部分)を勢いよく振り下ろした。衝撃で身が反るものの、手は離れない。それどころかますます力を込められていくのか蛍の表情がどんどん険しくなっていく。冬耶が真顔で三人に近づいていった。

「ちょ、おい冬耶!」

先ほどの嬉しそうな声とは裏腹に慌てたような幸樹の止めが入る。が、一足遅く冬耶の足も松崎の腕にかかった。真顔から一変して楽しそうな、否、黒そうな笑みを浮かべて、

「日頃の、ね?」

一体何があった。

蛍の足を掴むその手を力いっぱい蹴り飛ばす。力がわずかに緩まり、夏乃が蛍を引っ張る。その間にも冬耶の攻撃は止まらず松崎の背中、頭、服が次々と埃にまみれていく。蛍を幸樹に預けると、その攻撃に夏乃も混じってきた。
遠巻きに見ている他ののっぺら教師は、どうやら自分たちの方が不利な事を悟ったらしく、もう近づいてくる事はなかった。
…傍から見るとまるでオヤジ狩りのような図だ。
そのまま蹴り続ける事約五分。他ののっぺら教師は自分たちの机に戻り、幸樹と蛍は退屈そうに窓の外を見ていた。
嫌にスッキリした顔で夏乃と冬耶が足を止め、二人の近くに歩み寄る。

「あー、スッキリしたー」
「どうしよう、Sに目覚めそう」
「何言っちゃってんのこの子ォォォォオオォォォオオオオ!?」

けっこう真剣な顔でそう言った夏乃に幸樹が突っ込む。ボロボロになってしまった松崎を見て、蛍が眉を寄せつつ問いかけた。

「…良いの?こんなにして」
「ま、ホラ。本人じゃないし、楽しかったし?」

良いんじゃない?と軽く言う冬耶を苦笑しながら見て、蛍は松崎に向けて合掌した。
もう襲ってくる気配はない。門に向けて設置されている監視カメラの映像を覗き込む四人を、影から見つめる目があった。
しかし、映像に夢中な四人は気付くことはなかった。


三話 了