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里海いなみ
里海いなみ
novelistID. 18142
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【未完結】学校の怪談

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「俺男なんだけど」
「ま、良いんじゃない?誰かに見られてる訳でもないし」

座敷童子に言われるままに女子トイレに来た。しかし入り口で幸樹が立ち止まってしまった。女子三人はその様子を見て不思議そうにしているが、理由を聞いて確かに、と呟いた。
そうそう男子が女子トイレに入り慣れているわけはなく、むしろあったら恐ろしいというか。入り口でごにょごにょ言っている幸樹の背中に、座敷童子が回りこんだ。
にや、と意地の悪そうな笑みを浮かべて、夏乃と冬耶が頷く。

『入って、ね!』

ドンッ!

「うわぁっ!?」
「あー良かったねー、入れたじゃん」

勢いよく押されたようで、かなりよろめいた幸樹に夏乃が笑顔でとどめ、と言わんばかりに言い切った。
地面にひざをつき、敗北者のようなポーズを取る幸樹の肩を蛍がぽむぽむと軽くたたいた。その顔にはありありと同情の色がにじんでいたのだけれど。

「さ、誰が花子さんを呼び出す?」
「そこはもうジャンケンでしょ」

そんな様子を横目にスルーしながら、夏乃と冬耶の二人で話がどんどん進んでいく。座敷童子に呼ばせるという選択肢は脳内には無いらしく、即答でジャンケンだと言い張った。
いまだにひざを付いている幸樹を無理に立たせると、せーの!と大声を出した。

「さーいしょーはグー!ジャーンケーン!」

夏乃の声に慌てて幸樹と蛍が手を差し出す。

夏乃・グー。
蛍・グー。
幸樹・グー。

冬耶・……チョキ。

三人の周りには花が、そして冬耶の周りには黒いオーラが漂っていた。

「あぁ、逝ってやる…逝ってやるさ…!」

「ファイトー」
「逝ってらっしゃーい」
「冬耶頑張ってー」

口々にかけられる言葉に、嬉しさではない何かからくる涙を浮かべつつ冬耶は学校の七不思議どおり、三番目のトイレの前に立った。ごくりと息を飲み、一度三人のいる入り口の方を見る。トイレのドアはいつも開いているタイプなので中は丸見えだ。

もちろん、誰もいない。

「はーなこさん」

返事は無い。もはや半泣き状態の冬耶がもう一度口を開こうとしたとき、

『はーぁーい』

四人がいっせいに振り向いた。座敷童子の後ろ、つまりトイレのドアのすぐギリギリにその姿はあった。
長く艶やかな黒髪は軽くウェーブし、メリーさんとはまた少し違ったピンクのワンピースを着ている。小学5、6年生くらいの身長だろうか。日本人特有の黒髪黒目で、おかっぱではない、ごく一般的に想像される花子さんといえば、黒髪のおかっぱ、赤いつりスカートに白いブラウスではないだろうか。
『花子さん図』を勝手に想像していた四人は、その異様な姿に目を大きく見開いた。

「……花子さん?」
『えぇ、そうよ?何か問題でもあるかしら、夏乃サン蛍サン幸樹クン…冬耶サン?』

恐る恐るといった夏乃の問いに、にっこりと、まるで花が開くような笑顔を向けながらさも当然といったように頷く。名乗ってもいないのに四人の名前を知っていた彼女は、座敷童子の手を引きながらトイレの中心へと移動してきた。それにあわせて冬耶が三人のいるドア側へと移動した。

「…花子さんってあれでしょ?赤いつりスカート」
「いやそれちび○る子な」
「国民的テレビアニメな」
『失礼ね、アタシが国民的アニメの主人公の格好なんてすると思う?それは勝手に想像した人たちのアタシよ』
「花子さんちびま○子知ってるんだ」

想像していたそれとはまったく違う彼女は偉そうに腕を組みながらそう言った。その言葉端を捕まえて夏乃が突っ込む。
突っ込まれた花子さんはその事実をスルーして四人を見回した。

『…座敷童子、この子達をここに連れてきてくれて、ありがとうね』

そう言いながら、ぴたりと冬耶で目線をとめる。しかしそれは一瞬で、おそらく誰も気づくことは無かっただろう。
組んでいた腕を解き、一度髪の毛を梳く。


『で、貴方たちは帰りたいんでしょう?』
「そうですね」
『今は帰れないわよ、貴方たち、終わらせていないもの』
「は?」

やれやれといった風に首を横に振り、花子さんは口を開いた。
こっくりさんを終わらせていないこと、それによって学校のお化けと称されるものや都市伝説と称されるものが集まっていること、終わらせないと学校から出ることもできないということ。
すべての発端であるこっくりさんの当事者である夏乃と冬耶はばつの悪そうな表情を浮かべた。確かに、終わらせてはいなかった。むしろ、終わらせることを忘れていたのだ、いきなり十円玉が宙を舞い、あまつさえ「死ね」なんて言われたものだから。

『使った道具をすべてルールに沿って処分なさい。帰りたいならね』
「……ひとつしつもーん」
『はい蛍サン』
「花子さんって校内で一番…強い?」

その質問に、花子さんは眉を寄せた。悔しそうに唇を噛みながら声を絞り出す。

『残念だけど…違うわ。私より強いのは、一人だけいるもの』

心底悔しそうな、しかしその強さを認めライバルのような関係として見ているような、そんな表情を浮かべた。その強いと言うものの名前を出すことは無く、軽く目を閉じた。
そして、ス、と四人の後ろ…入り口のドアを指差した。

『あそこにいるのは、とても弱いものよ』

振り向いた先には、枯れ野原が広がっていた。否、枯れた草のように見えたのは無数の手、それも腐りかけているものから完全に白骨のもの、まだ生きている人間のもののように新しいもの、小さな手大きな手と種類豊富だ。

「ぅげ!」
「…あの、白骨と握手したい…!」
「いっぺん連れ去られて来い」

キラキラとした目で白骨を見つめる夏乃に冷静に幸樹が突っ込んだ。蛍は真っ青になって目をそらしているが、冬耶は微妙にどこか嬉しそうな顔だ。さまざまな反応をする四人を苦笑交じりに花子さんは見ていた。

『そろそろ行きなさいな、帰れなくなるわよ?』

その言葉に四人はこくりと頷いた。が、夏乃が叫ぶ。

「その前に、この手をどうにかしてください!」
『あ、そうね』

さも今の今まで忘れてましたとでもいうかのように花子さんはまた笑った。そしてドアの方へと顔を向け

「いい加減に消えなさい!」

一喝した。
揺れ動いていた無数の手はビクリと怯えたように一度動きを止めると徐々に消えていった。

廊下はまた静かになった。

『…アタシがいなくても、大丈夫ね。場所はわかってるでしょう?アタシの気配がついてるから危ないことも、たぶん無いと思うわ……………別の子も、ついてるしね』

最後の言葉は本当に小さな声だった。隣にいた座敷童子にも聞こえているのかどうか不明なほど。
静かな廊下はやはりまだ暗いまま静かに横たわっている。音は何も無く、何かが現れる気配も無い。
それを確認すると皆ゆっくりとトイレを出て行く。一番最後にトイレを出ようとした人物の服の裾を花子さんが掴んだ。



『…全員、帰すのよ』

『…………あぁ』





五話 了