秋到来
日本の美しい四季がいつまでも続くように、日々祈っています。
ええ、祈っていますとも。
この間までは猛暑だった。
だが、暑さ寒さも彼岸まで、とはよく言ったもの。
今日からは秋らしい日々にしなくては・・・秋を司る者として頑張らなくては!
箪笥から黄色の着物と濃紅の袴を出す。
今日のために新調した仕事着。
これに袖を通すと、さらに気合いが入った。
背筋を伸ばして「仕事場」に行くと、そこには先客がいた。
「は?」
「いやーだからさ。寒波きてるし、冬を司る僕が頑張った方が自然でしょ?秋は休んでなよ」
「仕事場」の前にいたのは、二藍の着物に香色の袴という出で立ちの冬だった。
私たちの家には「仕事場」という名前の部屋がある。
この部屋にはいって、ただひたすらに想像する。
自分の司る季節の理想の日々を。
そして、それが実現するように願い、祈る。ただひたすら。
それが私たちの仕事だ。
気圧の変化だとか気温だとか湿度だとか、そういったものは私たちの管轄ではないし、どうこう出来るものでもないから、そういうものに対しては精いっぱい「やめてください」と願うだけなのだが。
「みんな暑いって言ってるから、ガッツリ冷やしてやんよ!」
「え、冬!まってください!」
「じゃね!」
シパーン!と良い音をさせて襖は閉められた。
ちなみにこの家は昔ながらの和風木造建築なので、冬になると隙間風がヒドイ。
「私、頑張ろうと思ったんですが・・・」
たしかに、寒波は来てるし天候は悪いし、秋らしくないけど。
でも、頑張って秋らしくしようと思っていたのに。
そこまで考えてたら、後ろから頭を思いっきり掴まれた。
そのままワッシャワッシャと頭をかき回される。
「あーき!何しょげてんだー?俺の後はお前だろ?早く仕事に入れよ」
「夏・・」
振り返ると、そこにいたのは夏だった。
ダボダボのTシャツにジャージという部屋着スタイル。
夏の仕事はもう終わったから。
この間まですこぶる張り切って仕事をして、最終的に張り切りすぎていた夏は、春にお説教されてたはずだ。
どうしてここに?
「いやー春がうるせーの。空気読め、とか約束しただろ、とか。仕事に精を出して何が悪いんだっつーの。なあ?」
「お説教は終わったんですか?」
「いや、便所って言って逃げてきた。お前は?仕事だろ?」
「あ・・私は、」
「ん?まさか・・」
私がどう言おうか考えているうちに、夏は何か感じ取ったらしい。
襖を睨んでいる。
と、いきなり襖を思いっきり開けて怒鳴った。
「くぉらあ!!!!冬っ!!おっ前、なぁにやってんだ!」
「げ、夏!」
「ご丁寧に仕事着まで着て・・順番と担当期間は守れって何度言わせる気だお前はあああ!」
夏はそのまま仕事場にズカズカ入って行って冬の首根っこを押さえてしまった。
「ちょっと、ちょっとだけ秋の代わりに入っただけだってば!」
「ああん?どうせ秋に何の断りもなくやったんだろうが!」
「ちゃんと言ったよー。ね、秋?」
「え・・と、言われました」
断り、というか宣言をされた。
「そうか。じゃあ春のところ行くぞ」
納得顔で夏は冬を仕事場から引きずり出した。
「何でさ!断ったって!」
「秋には断りを入れたんだろ?臨時で仕事場に入るなら、春にも許可をもらわないとな」
「そんなルール聞いてないよ!」
「よーし、じゃあ今覚えとけ。秋、冬が許可もらうまで仕事頼むわ」
「あ、はい」
二人の会話に流されてうなずく。
それを見た夏はニカッとしか形容できない笑顔を浮かべると、冬を抱えて行ってしまう。
あ。
「ありがとう!夏!」
背中に向かってお礼を言うと、夏は空いている手をヒラヒラ振って答えてくれた。
二人が廊下を曲がるまで見送ってから、深呼吸をひとつ。
夏が半開きにした襖から仕事場を見る。
これから三カ月・・いや、夏が張り切りすぎたから三カ月もないか。
二カ月ほどは私の腕の見せ所だ。
「よし・・!」
気合いを入れなおしてから、仕事場に入った。