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現実を嗤う

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06.煌々燦々


つまるところ君はその時、俺にずるいと言ったんだよ。俺がそう言うと、それまで一定のリズムで鳴っていたタイピングの音が止んだ。その話題を振ったのは、仕事の真っ最中だった。俺がダンボールから取り出した書類に一枚一枚目を通し、仕分けをし、トランクスは分けられた書類をパソコンに打ち込んでいる。
軌道に乗ったカプセルコーポレーションでの仕事は尽きない。なにせこれからの文明を発展させる第一企業になるのだから。(これはブルマさんの台詞だけれど。)俺が生き返ってもうすぐ一年が経とうとしていた。死んでいても生きていても、月日が流れるのはとても早いように思えた。
近頃は夜間が冷え込む。もうじきに、秋になるのだ。窓の外の空は高く青く、蜻蛉が何匹も飛んでいる。トランクスの指が止まってしまったので、俺がそれとなく注意すると、いつの話です、それ、とトランクスは眉を顰めた。

「一年くらい前だよ。俺が君に、付き合おうと言った日に。」
「覚えてません。」

しばらく視線を宙にさまよわせていたトランクスは肩をすくめた。あの時のことは確かに覚えているけれど、ずるいと言ったことはまるっきり覚えていないという。もしかしたら彼は半分眠っていたのかもしれないと今になって思う。

「俺が付き合おうと言ったら、君がずるいと言い残して眠ってしまうもんだから、どうしようかと思ったよ。あの時は。」

冗談交じりにそんなことを言ってみせる。トランクスはパソコンの画面を前に、昔を思い出すような顔をしていた。彼の伸びたまま切らずに結われた髪が、窓の外から入ってきた風に揺れた。その風にトランクスは窓の外を見遣った。何事かを考えているようにしてから、俺のほうを向く。

「その時の言葉は忘れてくれてもいいと思います。だって今でも。」

今でもずるいと、思うことはありますから。
そう言って少し笑ったトランクスの表情があまりに穏やかに見えて、なぜか俺は心が落ち着かなくなった。一年が経った今でも、俺は心のどこかで彼に繋ぎとめられているという気がしていた。不意にトランクスがいなくなったら俺も多分元に戻るのだろうという、そんなどこか頼りの無い気持ちがあった。

「今でもずるいと思うの?」
「はい。」
「だけど君はその理由を教えてくれないんだろう。」
「仕返しですから。」

彼の言う仕返しというのが一体何に対してなのかはよくわからない。だけど多分、俺がずっとトランクスの気持ちから逃げていたことや、勝手に死んだことや、勝手に生き返ったことにかかっているのだろうなと思う。なるほど、確かに何も告げられないというはなかなかにもどかしいものだった。俺は参ったなと口に出してからまた書類をまとめることに取り掛かる。数分ほど紙をめくる音とパソコンのキーボードを叩く音だけが室内に響いていた。その中で、トランクスがなんの前置きも無く言う。

「悟飯さん、知っていますか。明日はあなたの命日だったんですよ。」
「ああ。そういえば。」

そういえばと返事を返したものの、本当はよく覚えていなかった。なにせその日を境に俺の周りの世界は変わってしまったし、きっとそういうことは残された者のほうが深く記憶しているものなのだろう。あの日、人造人間に戦いを挑みに行った時も空は青かった。その後天気は崩れ土砂降りになったという話だけれど、確かにあの日の空は青かったのだ。雨の日は嫌いです。でもよく晴れた日も好きじゃないんです。以前、トランクスはそう言っていた。やはりその日の事が原因なのだろうか。そうだとしたら悪いことをした。俺の所為で、彼の中から二つも天気を失わせてしまった。

「悟飯さん。」

俺の名前を呼んだ声が掠れていたのに、俺は気付いていた。
名前を呼ばれてトランクスを見る。またキーを叩く指は止まっていた。その指は机の上で強く握られている。立ち上がって、椅子に座ったままのトランクスを横から抱きしめる。大丈夫、ちゃんと生きてるから。そう言えば、腕の中の人物はひとつ、震える息を吐いた。

「やっぱりずるい。」

そう言ってくしゃり、と泣くように笑った顔が一年前と何ひとつ変わっていないようで、俺まで似た顔になってしまう。窓の外は相変わらず平和な色をしている。今日はどうか、雨が降らないようにと切実に祈るばかりだ。

「でもそれはお互い様だよ。」

俺がそう言うと、トランクスが少しだけ笑った。ほんとうだ、と言うその声を刻み付けて出来るならずっと忘れずにいたいと思った。


(眩しくて、だけど見ていたいものを見るための方法)
作品名:現実を嗤う 作家名:サキ