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西の国の王と神様に愛された娘

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 美しい妃と王の姿に、人々は前にもまして幸せな気持ちになりました。しかしある時わるい宰相が現れて、王を殺してしまおうと企みました。宰相は美しい妃を我が物にしたかったのです。王が死んでも、シバがまた新しい王を探してくるだろうと考え、どうしたら王を殺せるか思案していました。
 丁度その頃、妃は王とずっと一緒にいたいと思って、シバに言われたことを王に話して、命の蝋燭のありかを教えてもらいました。
 妃はある朝、ドレスを脱いで裸になると、魔法で聖域に飛びました。銀の塔の周りには四つの塔があって、それぞれに王の命の蝋燭が安置されているのです。塔を守る兵隊は、あの森の獣と同じように、裸の妃に切りかかろうとはしません。無事に西の塔の天辺についた妃は、蝋燭の火で左手を焼き落とし、代わりに王と同じ命を手に入れました。
 しかしこの時、あの悪い宰相が妃の跡を追っていました。彼女のしたことを残らず見ていましたから、裸になって塔の天辺まで行き、命の火を吹き消してしまいました。
 妃がお城に戻ると、王は既に息絶えていました。妃は大変悲しみ、ふさぎ込んでしまいましたが、宰相は王が神をないがしろにしたと言って、シバに新しい王を願いました。シバは妃の悲しみを知っていましたから、次の王は妃の身体に既に宿っていると告げました。
 妃はこれを聞くと、嘆くのをやめて新しい王のために尽くしました。宰相はこの前の王の子供が憎くて堪らなかったので、彼が生まれてすぐ、妃を騙して殺してしまいました。
 宰相は悲しむ妃に、あなたは私の子を生んで、次の王にしなければならないと告げました。やがて妃が身篭ると、宰相は王の父親として、権力をふるうようになりました。
 生まれた子は三つ子でしたので、宰相も妃も、どの子を王にするべきか途方にくれてしまいました。それで銀の塔を訪ねると、シバは妃だけに耳打ちしました。
「呪われた女よ、あなたはこれから、三つ子のうち、一番小さい子を食べなければならない。また、真ん中の子を切ってすべての血を飲み干さなければならない。その子の遺体は、あなたの本当の夫に送り、代わりに夫から、銀の石と指輪をもらいなさい。あなたはそれを飲み込んで、一番大きな子との間に子供を授かるでしょう。その子こそ新しい王なのです」
 そして宰相に向かっては、あなたが王になりなさいと言って、奥に消えてしまいました。
 宰相は喜んで西の国に帰り、私が王だと宣言しました。人々は驚きましたが、宰相に逆らえば殺されると知っていましたから、何も言わず従いました。
 しかし妃は絶望的な気持ちになりました。彼女はこれから、愛しい我が子を殺し、生き残った子と結ばれなければならなかったからです。
 しかし泣きながら三つ子を見ているうちに、どういうわけか、一番小さな子を食べたくて堪らなくなりました。肉を食らうと今度は喉が渇いてきました。それで妃は、真ん中の子を切って、その血を飲み干しました。
 そのとき宰相がやってきて、このありさまを見てしまい、女がうとましくなって、妃と息子を城から追い出してしまいました。
 妃は幼い子を抱えて、可哀相に、裸足を傷だらけにして歩いていましたが、親切な神官の夫婦に見つけられて、彼らの家で過ごす事にしました。
 息子はたくましく成長し、女達に言い寄られるようになりましたが、彼は美しい母親以外には興味を示しませんでした。やがて妃も息子が恋しくて堪らなくなり、ついに子供を生んでしまったのでした。
 このおぞましい行いを、神官は許しませんでした。三人は追い出されて、再び惨めな暮らしをすることになりました。
 生まれた子供は、酷い奇形でした。それで、夫婦は彼を「邪」と名付けました。
 ある時夫は罪を悔いて、妃の前から姿を消しました。妃が目覚めると、夫の左手だけが残されていて、妃はその左手を小箱にしまって大事に持っていました。
 都からあの宰相が死んだという知らせが届いたので、母子は人々の前に出てきました。「邪」は、とても美しい少年になっていました。それで人々はこの新しい王を歓迎し、お城に導いて玉座に座らせました。
 さてあの悪い宰相の(二番めの妃の)子供は、いきなり現れてきたわけのわからない少年に王の地位を奪われたので、大変憤慨してシバに訴えました。ところがシバは宰相の息子に、王はもともとあの者なのだと言ってとりあいませんでした。
 宰相の息子は逆恨みして、「邪」の前に進み出ると、銀の塔を攻めてあなたが神になればいいとしきりに勧めました。王と神が合い討ちになればいいと考えてのことでした……。

 邪は、母君からシバがしてくれたことを話して聞かされていましたし、心根がまっすぐな人だったので、宰相の息子のいうことをとりあいませんでした。
 そこで宰相の息子は一計案じて、まず邪の母君に、「明日銀の塔で宴があるから、支度をして向かってください」と言うと、魔法で一足先にシバの元へ行って、邪の母君についての悪い噂を、あることないこと報告していきました。
 シバは邪の母君の呪われた運命や真心を承知でしたから、宰相の息子の悪巧みを見抜いて、歓迎の宴の準備をしました。
 やがて邪の母君が、綺麗な金銀の絹のドレスを着て現れると、シバはミルクや、バターを塗った柔らかなパンや、みずみずしい果物で、母君をもてなしました。
 さて西の国に舞い戻った宰相の息子は、邪に母君の居場所を尋ねられると、いいはばかるようなそぶりをしながら答えました。
「実は、貴方の母君さまは、一月に一度めかしこんでシバ様に逢われ、夫婦のように睦まじくされていらっしゃいます」
 この報告を聞いて邪は驚き、とても信じられませんでしたが、なにはともあれ確かめてみようと、宰相の息子の魔法で銀の塔に向かいました。
 ふたりが窓から覗くと、母君とシバはふたりきり蝋燭の明かりの中で踊っていました。
 邪はびっくりして、宰相の息子の話をすっかり信じ込んで、母君をたぶらかしたシバを怪しむようになりました。
 さて母君が西の国に戻ると、邪は家来に命じて、母君をお城の地下の暗い部屋に閉じ込めてしまいました。その部屋は何もかもがふしぎな鉄でできていて、母君の魔法を封じてしまいました。
 母君がわけを尋ねても、邪は「母上のためです」というばかりで答えてくれません。
 部屋の中には鉄の猫と、鉄の籠に二羽の鳥がいて、鉄のテーブルと、鉄のベッドと、明かり取りの小さな窓があるばかりでした。
 早朝と夕暮れ時に召し使いがやってきて、小窓からパンとスープをくれる他は、話す相手もいない寂しい日々が続きました。
 母君は召し使いが来るたび外に出してくれるように頼みましたが、駄目でした。
 そこで母君は、鉄の猫を膝にのせ、鉄の毛糸を編みながら、一晩中思案に暮れました。