その日
「明日、10時に橋の下に来て。話がしたい。」
メールを打つ私の手が震える。。
――・・・これで、たったこれだけのメールがきっかけで、私たちの時間は動き出してしまう。
・・・・たったこれだけで。ただ、この一言で。
そしてその日はやってきた。
昨日の晩は全くと言っていいほど寝られなかった。
人生で初めて、「胸が痛い」というのはどういう事なのかを思い知った。
何度も寝ては起きて、泣いた。
私は家を出た。
外は雨が降っていた。
手に持っている手紙が濡れないように抱きしめるようにして、約束の橋の下へ向かった。
橋の下には、もうすでにあなたがいた。
私は挨拶もせずに、黙って手紙を渡した。
何か言ったら、泣いてしまいそうだった。
あなたの姿を見るのも辛く、私は背を向けて、あなたが手紙を読み終えるのをじっと待った。
雨の滴がぽつぽつとおちてくる。
それまで乾いていた地面に静かに、じんわりと染み込んでいく。
しばらく時間がたった。
何の反応もないので、待ちかねた私は恐る恐る、振り返った。
そこには。
手を顔に押し当てて、静かに泣いているあなたがいた。
初めて見る泣き顔に、私は困惑した。
そしていたたまれず、
「何泣いてるの!」
そう言った。
精一杯明るく言ったつもりだったけれど、声は震え、目は涙で今にも溢れそうだった。
――・・・もう、限界だった。
本来であればあまり濡れる事のない橋の下の地面に、ぽつん、ぽつん、と涙がしみた。
不意にあなたは私を抱きしめた。
「ち・・・ちょっと・・・」
せっかく別れを決意したのに、と私は抵抗したけれど、ぎゅうと抱きしめたまま、離してはくれなかった。
そしてあなたの口から言葉が一つ、漏れた。
「最後まで・・好きでいられなくて、ごめん。」
私たちは泣いた。
私たちは幼かった。
もう少し大人だったら、もっとずっと一緒にいられたかもしれない。
ただ、誰よりも愛しているだけではだめだった。
分からない。
もう、分からないよ・・・。
私たちはもうやり直す事はないだろう。
これから、少しずつあなたのいない日々に慣れていかなければならない。
そして、その”これから”は、もう始まっている。
その後、少し二人で思い出を振り返った。
笑いあって、「これからは友達としてよろしく」と言って、握手をした。
その言葉は悲しくて、苦しかった。
私が泣くと、あなたはそっと頭を撫でてくれた。
――・・・なんで恋人じゃいられないのだろう。
これが、私が最初に経験した、大切な人との別れだった。
恋人というのは難しい関係で。
例えば友達なら、ケンカでもしない限りは友達でいられる。
恋人もそれと同じかもしれないけれど、おおよそ私たちの場合は違った。
完璧な”好き”を求めるあまり、”好き”が何なのか分からなくなってしまったように思う。
だから、いつかその答えを見つけた時には、きっと――・・・。
さようなら。