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近付く季節に

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ぼんやりと手に持った白いカップから湯気が立つ
 外で静かに降る春雨が窓の内と外を濡らす
 何となくその窓に指先を這わせると濡れた窓が泣いた

 ―冷たい―

 その思いが頭を通ると自然と這わせていた手を逆の手のカップへと持っていった
 手で包んでいると淹れてから少し経ったコーヒーの熱さが沁みてきた
 熱さから包んでいた片方の手を離し静かに口付けた

 ―もうそろそろ温かくなる―

 眉間に皺がより始める

 ―もう一緒に居られなくなってしまう―

 視線を隣の部屋にあるベットへと向けた
 全体がグレー系で統一されたベットに横たわる一人の女性
 長い睫毛は伏せられ
 頬はほのかに赤く桜色をしている
 目を閉じて尚安らかなのは口角が少しだけ上がっているから
 ブラウンの髪は肩より長くそれをシュシュで片方に纏め緩くカールをかけている
 細い首から下がる小さな銀のネックレスは僕が贈った物
 ピンクのカーディガンをフリルの付いた長袖の上から羽織ってる
 白いふわりとしたスカートからすらりと伸びる異常なまでに白い脚
 手は中間部分にそっと乗っている

 ―愛おしい―

 自然と顔が綻ぶ
 離れた所から彼女を眺めながら再びカップに口を付ける

 ―冷えている―

 8割以上中身の残ったカップを凝視する

 ―そんなにも眺めていたのか―

 苦笑いをしながらキッチンへと向かい冷めたコーヒーをシンクに捨てた
 カップに水を浸しシンクへと置き去る
 軽い身支度をし出勤に備える
 身支度を終え寝室へと向かう
 彼女が居る場所へと

 彼女の安らかな顔をベットサイドから眺める
 長い睫毛は伏せられたまま
 起きない彼女にキスを落とす
 顔を離したときに香った独特の臭い
 小さく微笑み彼女に言葉を贈る

 「いってくるよ」

 見守りながら思った

 ―早く何とかしなければ―

 静かにドアを閉め家を出て行った

作品名:近付く季節に 作家名:真柴