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あい?まい?みー?MINE!!

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Episode.2 家庭教師を頼まれました。





 それから、数学英語で共に2回ずつは過ぎ去っており、計6日分は顔を合わせたであろう日の事であった。
数学と英語は交互に行われている為、本日は数学であり、帝人は最早定位置となった窓際後ろから1つ前の席に座り、危なげない様子で課題をこなしていく子供の様子を眺めていた。
どうやら吸収力は良い様で、要点と要領さえ掴めば、彼はそれ程苦も無く問題をスイスイと解いてしまえるようだ。やれば出来るのにやらない子、の典型的な例なのかもしれない。
その一方で、英語は未だ発展途中の状態ではあったのだが。
最も、教え子本人である静雄に言わせると、「アンタの教え方が良いんだろ。」、との事らしいのだが、素人である以上、自分の教授力に自信の欠片も持てないのだった。

 帝人は真剣にプリント(最初は基礎ばかりであったが、前回程より応用も何とかこなせるようになりつつある)と格闘している静雄の旋毛を見ながら、うっかり欠伸が出そうになるのを必死で噛み殺す。
日が傾き、空色に橙が綺麗にグラデーションし始める。意外な組み合わせではあるが、存外にそれが映えるのだと、思えるようになったのは何時の頃だろうか、と栓無き事を考える。
思考する事で頭を動かさない事には、寒さを阻んで温かさだけを伝える西日により、舟を漕ぎそうになるからだ。
いけないと、グッと目に力を込めた所で、「竜ヶ峰先生…」、と控えめに名を呼ばれる。

「あぁ、御免、終わった?」

済んだ眼差しで上目遣いに見遣る静雄の表情は年相応である。少々幼さの残る性格が、体格の良さとちぐはぐだ。
綺麗に染められた金糸が日の光を反射し(地毛かと思ったが、本人が染めたと悪びれも無く告げた)、所謂天使の輪を作り出す。本物の美形は細部に至ってまで洗練されているものなのか、羨望を通り越して感心してしまう帝人であった。
どうやら彼は今までの学習会の中で漸く帝人と言う人間に慣れて来たのか、前々回辺りから、今までは"アンタ"の呼称に警戒心丸出しの口調だったのが、"竜ヶ峰先生"になり不格好な敬語を遣う様になっていた。
誤った敬語の使い方には苦笑を禁じ得ないものの、その作法に至っては高校に進学すれば学習する事であるから、取り敢えず本人の誠意を尊重する事にしている。
キッチリと埋められたプリントと、事前に用意されていた解答を照らし合わせ、プリント全体に赤ペンで大きく花丸を描く。

「うん、良く出来てる。全問正解!凄いね、ちょっと前に比べたら処理スピードは上がったし、正確性もグンと上昇したじゃない。」

まるで我が事のように喜ぶ帝人に、静雄は頬を染めた。
グッ、と口籠り言葉を紡げない静雄に気付かないまま、帝人は次の課題の仕度をしようとする。

「えぇと……っ、――――……あぁー…」

そうだ、もう無いのだった、と、帝人は用意されていた課題が全て済まされた事を思い出す。
ここからどうすべきか、は、実はこうなる事が進行具合と速度から予想されていた帝人は、前回、担当教諭に相談していたのだ。
すると彼は、苦笑ともただの微笑とも取れる曖昧な表情を晒し、「平和島君の勉強内容については、竜ヶ峰君に一任致します。情けない事ですが、私達が彼に教えるより、ずっとスムーズに理解してくれているようですからね。」、と、述べた。
そこに大人としてや教師としてのプライドを無駄に介在させ、帝人に対する八つ当たりの様な感情を一切向けなかった事に、帝人はこの教諭に対する高感度をまた上げた。
教え方云々の問題では無く、こうした生徒を良く理解してくれる先生がどの学校にも必要だと、切なく思うのだった。

「? 竜ヶ峰先生?次の課題はどうするんスか?」

何時までも次のプリントが出てこない事に疑問を感じたのだろう、静雄が首を傾げて帝人を見る。
帝人は、自己の準備の怠りを内心で激しく責め、静雄に申し訳無さそうに少し頭を下げた。

「あの、申し訳無いです、平和島君。実は、学校側が用意してくれた君の課題は、全部終わったんだよね。…あぁ、だからってまだ帰れないだ。それでね、僕、君の学習の理解の助けになれるようにと思って、一応問題集も選んでおいたんだ。けど、本当御免、今日は持ってきて無くてね。だから今日の所は、教科書の問題を解いて貰えるかな?」

次回にはちゃんと用意しておくからね、と眉根を下げると、一瞬静雄はきょとんと眼を瞬かせたものの、直ぐにその表情は、帝人と同様のものに変わる。

「いや……先生も色々ある筈なのに、俺の方こそ済んません。問題集とかは、本当は自分で用意しなくちゃ、っすよね。」

「やっ、本当!君は全然心配しなくて良いから!!まぁ、勿論、君が自主的に学力を向上しようとして自分でテキストとか買って勉強してくれるのは構わないってか寧ろ嬉しいけど!僕に気を遣ってくれる必要は無いから。」

ねっ?、と静雄の目を覗きこめば、揺れた瞳が安定を取り戻し、肩から力が抜けた事が分かった。
いそいそとノートを取り出し、教科書を開いて、問題文を追って行く姿勢は、どう見ても普通の学生である。
どうも彼は自分が"特殊"で阻害されるべき"異分子"であると思い込んでいるようだが、その実、たった一部が異常なのであって、その他は何も変わらない、少し手の掛かる子供である事を、自覚したら良いのに、その様に思うのだが、彼は自分と違うのだし、彼には彼の葛藤や悩みがあって、そこに無遠慮に踏みこんでしまうのはルール違反だと、口に出した事は無い。
だが、それでも、突出して異端な部分が目立ってしまう彼の、普通の部分に目を向けて接してくれる人間が現れ、更に言うならば、静雄自身が、その突出した部分を受け入れずとも良いから、許容してくれればと、願わずにはいられないのであった。


 沈み掛けた思考を引き上げ、腕時計に目を遣ると、学習会終了時刻5分前にまで迫っていた。
慌てて静雄を見ると、彼は時間など気にしない様子で、目の前の問いに集中している。
それを乱さないように、設問1つの解を導いて筆跡が止まったのを見計らい、静雄に声を掛ける。
顔を上げた静雄は教室前方に掛かっている時計を見上げて驚いたように目を見開くと、無意識の内に力が入っていたらしい両肩の力を抜き、息を吐く。

「お疲れ様、平和島君。切りの良い所まで行ったし、今日は此処までにしようか。」

言って、帝人は筆記用具を片付け始める。残り時間は、他の生徒の邪魔にならない程度の音量で雑談すれば良い。偶にある事である。
言葉を合図に静雄も帝人に倣おうとシャープペンを筆入れにしまい掛けた所で、ピタリと行動を止め、逡巡すると、再びノートに向かって何か書き始めた。
最初は何か問題で気になる所でもあっただろうか、と帝人は思ったのだが、それにしては1度として教科書に目を呉れないなと思っていると、一仕事終えた静雄は筆を置き、ずいっと帝人の眼前にノートを差し出した。
唐突な行動に思わず仰け反って、帝人はそれを受け取る。何だろうと静雄に視線を送ってみるが、彼のソレはずっとノートに注がれている。
見ろ、と言う事かと、帝人が下に目を落とすと、数字や式、解が並んだノートの端、小さくそれは書かれていた。