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あい?まい?みー?MINE!!

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Episode4.卒業しました。





 そうして時は、瞬く間に過ぎ去って行く。
1月が過ぎ、2月も終わりに差し掛かろうとする頃、静雄は不可思議な感情を持て余すようになっていた。
それは、腹の中がグルグルするような、不定期に起こる頭痛のような、喉に痞えた何かのような、とにかく、漠然としたものだった。
最初は、高校受験の本番が近付いたことでナーバスになっているのだろうと思っていた。本人に自覚はなくとも、周囲に言わせると静雄は案外「繊細」であるらしいので。
だが、帝人に勉強を見て貰っていても、学校で授業を受けていても、更には担任から受験に関する内容の話を聞いたとしても、微かな緊張は抱いても、心に重く圧し掛かるようなものは無かった。
予測を許さない波は、時に細波、時に津波のように静雄に襲いかかっては、彼の中の何かを煽った。
不可解な気持ちを抱えながらも静雄は本命高の受験を迎え、自己ベストで挑んだのだった。
そう、後に静雄はこの時の心情を“不安”だったと理解する。
その時が、丁度、静雄の高校受験の合格発表の日だった。



 その日、静雄の隣には、帝人の姿があった。
静雄が頼んだ為である。1人で見に行くのは少し心細かったし、だからといって母親に頼むのは恥ずかしい。
それに、「結果が分かったら教えて欲しい。」、と帝人も言っていたので、どうせなら一緒に見に行って貰えば良いと思ったからだ。
高校前で待ち合わせた帝人の表情は、静雄以上に強張っており、割合落ち着いている静雄とは対照的に、酷く緊張しているように見えた。

「先生・・・大丈夫っスか?」

「だっ、大丈夫、大丈夫。うん、大丈夫だよ静雄君。」

言い聞かせるように言葉を紡いだ帝人は大きく深呼吸をすると、先を促す静雄の背に追い付いた。

「駄目だね、僕。こんなんじゃ、静雄君もテンション下がっちゃうよね。」

「いや、そんなことは無いですけど。」

「静雄君がベストを尽くせたんなら、大丈夫に決まってるよね。そうだよ、心配することなんて何も無い。さっ、行こうか。」

ふっ、と偶然にも触れた帝人の指先は、冷たかった。
どうやら相当帝人は、緊張しているらしい。静雄の合格発表だというのに。
その後ろ姿に、静雄は少しだけ入っていた肩の力を抜くと、「先生、コッチっスよ。」、と誤った方向へと足を進めている帝人の手を引いた。

 そして、結果発表の掲示板の前へ。
背の高い静雄と、その隣に立つ小柄な帝人は必死に静雄の受験番号を探す。と。

「あっ、あっ、たぁ・・・!」

微かに震える声で、帝人が静雄のシャツを引っ張った。
声と指先に押されるように静雄は視線を滑らせ、見知った番号を発見すると、自身が持っている受験票と見比べ、帝人の顔を見下ろした。

「っ、先生!!」

「おめでとう、静雄君、本当におめでとう!!」

目元に涙を浮かべ、、静雄に向って最上級の笑顔を向けた。
そして。

「良かった、本当に良かった。静雄君、勉強頑張ったもんね。今までお疲れ様。」

告げられた言葉に、嬉しさともう1つ、どよりと胸に降って来た重みを自覚した。
そうして、静雄は理解した。
もう、これで帝人が静雄に勉強を教える義理は無くなってしまう。
ということは、静雄が帝人に会う為の名目が失われるのだ。
その事実に、静雄は愕然とする。
いつの間にか、勉強を教えて貰うことが、目的から手段になっていたことに、漸く気付く。
だがしかし、気持ちの整理も直ぐには出来ず、満面の笑みを浮かべる帝人に何も言うことが出来ないまま、結果報告の為に静雄は学校へ登校した。





「卒業、おめでとう、静雄君。」

 とうとう迎えた卒業式。
幼い貌に穏やかな笑みを浮かべ、着せられているスーツが不釣り合いな帝人が、退場して校門前にやってきた静雄に祝辞を述べた。
これまで、私服しか見てこなかった帝人の礼服姿は、何だか遠い他人の様な気がして、静雄はツキリと痛む胸をどうにか押え付ける。

「見に来て、くれたんスか。」

「勿論だよ!まぁ、保護者父兄の中に混ざってたから、不審者扱いされないかどうか、心配だったけどね。」

苦笑を浮かべた帝人は、持っていた花束とラッピングされた小さな箱を差し出した。
困惑と喜色を混ぜ合わせた形で、静雄はこそばゆい思いを味わいながら受け取る。

「有難うございます、先せ・・・あっ、いえ、竜ヶ峰、さん。」

きょとり、と目を瞬かせた帝人に、「だって、もう、俺の家庭教師は、終わり、ですよね・・・?」、と静雄は乾いた口内から紡ぎ出した。
緊張と、不安。受験の時も、卒業式の時でさえこれ程までにしてはいないだろう程の心地を、今静雄は味わっている。
この問い掛けは、静雄にとっては重要な、2つの意味が含まれていた。
あぁ、と納得したように頷いた帝人は、緩く口角を持ち上げた。

「そうだね。もう、僕が静雄君の勉強を見て上げる機会は無くなっちゃうのか・・・何だか、ちょっと、寂しい、ね。」

この時、一陣の風が、2人の間を吹き抜けた。
早咲きの薄紅色の花弁が、両者を隔てるように舞って行く。
静雄は、突風に反射で閉じた眼を、そろりと開ける。
その、花弁の隙間から垣間見えた表情が、静雄の迷う背を、押した。

「・・・・・・っ、あの!」

一歩、踏み出す。その距離、丁度1人分開けた距離。
驚いたように静雄を見上げる帝人は、幼さを増している。
静雄は、年上なのに年下のような彼を、無性に引き寄せたくなって、衝動をどうにか堪えた。

聳え立つ壁は、高い。壊す事すら困難な頑強な壁面が静雄の行く手を阻む。
途方にくれそうになり、また挫折しそうな時はいつも、前に帝人が居た。
諦めないことを教えてくれたのも、静雄に自信を持たせてくれたのもまた、帝人。
雲のように、太陽のように、近いのに遠いその存在を、今度こそ、静雄は手に入れたいと思った。その為の覚悟を、今、決めた。

「あの、俺!今日が最後なのは、嫌です。もっと竜ヶ峰さんと話したいし、遊びにだって行きたい。また勉強も教えて貰いたいし、まだまだ、全然、足りないんです。」

「静雄、君・・・」

それに幽だって、と口に出し掛けて、止めた。困難な道のりを応援してくれた弟に、これ以上の不義理は出来ないと静雄は思った。
これは、静雄の気持ちを伝えねばならない時なのだ。幽の名前を出すことで、気持ちが擦り替わってはならない。

「確かに、先生と生徒、って関係は、変わるかもしれない。だけど、これから、ただの"平和島静雄"と、"竜ヶ峰帝人"として、また、続けていくことは出来ませんか。」

握り締めた卒業証書を持つ手に、汗が滲む。じわりと体温を上げる頬に、3月の肌寒い気温が心地よかった。

「俺は、これからも、一緒に居たい。だって、俺は・・・!」

「静雄君、ちょっと待って。」

半ば叫ぶようになってしまった静雄の手に、静雄よりも小さい帝人のソレが掛かる。
途中で止められた静雄は不満げに帝人を見たが、「人が多いから、人目の無い所に行こう。」、と言って手を引かれた。
場所も状況も忘れて一世一代の告白を為そうとしていた静雄は、失念していた事実に盛大に顔を赤らめた。
謝罪しようとして帝人を見ると、短髪の間から覗く耳が、静雄同様に、赤い。