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ありえねぇ !! 4話目 後編

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6.





来良総合病院で、帝人の首と静雄が、セルティと合流したその同時刻。
粟楠会の赤林が、アポなしで臨也の事務所にやって来た。


那須島が彼に消されたのは掴んでいたが、正直、昨日の今日でここに現れるとは想定外で。
油断していた自分自身が憎い。

応接室になっているソファーに通し、波江にドリップ式のコーヒーを頼む。

「しかし、珍しいですね。粟楠会の赤鬼さんが、俺に情報を求めるなんて。貴方の子飼いの情報屋達が、嫉妬しても知りませんよ?」

だが、赤林は臨也が仕向けた話に乗ることも、厳しい表情を緩める事もなかった。
杖に両手を置き、其処に顎を乗せる何時ものスタイルで、色のついたサングラス越しに、じっと臨也を睨みつけている。

「【リッパーナイト】の夜、お前は新宿中央公園の中にある、六角堂付近で、園原杏里と会っている筈だ。二人で一体何をしていた? その後彼女は何処に行った?東京で杏里と最後に接触したのはお前だ。彼女はその後失踪したんだからな。彼女は今何処に居る?」

最初から赤林は喧嘩口調だった。
ノンブレスで一気にまくし立てられ、臨也は大仰に溜息をつき、肩を落とした。

「……ちょっと性急過ぎやしませんか?……もう少し、落ち着いて穏やかにお話しましょう?」

そう一言口を挟んだだけなのに、直ぐに杖をスラリと引き抜かれる。
刃が折れていて、3分の一に減ってしまっているが、手入れの良い青光りする刀身を、ぴたりと丹精な頬に押し当ててくれやがる。

「俺はまだまだ穏便だ。さっさとゲロしろ。くだんねぇ事をごちゃごちゃ抜かされると、多分その高い鼻と永遠におさらばする事になるぞ?」

この男、駄目だ。
臨也は再び大きく溜息をついた。

「赤林さん自身が、子飼いの情報屋を大勢抱えているのは知ってます。俺にとって商売敵ばかりですからね。でも、それは本当に正確な情報ですか? 俺自身、敵が大勢いるのは判ってますし、俺は貴方を嫌悪している、四木さんの配下ですしね。今回の件、お互いに嵌められたとはお考えになれませんか?」
「あくまで杏里をしらねぇと言い張るつもりか?」
「ええ」
「……便利だよな。ダラーズの掲示板は……」

じっと、サングラス越しに睨まれる。


「お前は、見てくれも派手だし、やる事もえげつねぇ。一般人から見ても目立つんだよ。あの切り裂き魔事件……【リッパーナイト】の夜は、随分池袋は賑やかだった。だからスレ立てて、てめぇの目撃情報を募ったら、ぞくぞく出てきやがったぞ」
「顔も見えない掲示板の書き込みなんて、それこそ罠でしょう? ほんと、一度冷静になってから、出直してきてください。お互い時間の無駄です」
「うるせぇ。俺が、どれだけあの子を大切に思っていたかは、情報屋のお前なら、知らない訳ねぇよな?」


さくっと刃が頬の皮を一枚切る。
臨也は益々大きく溜息をついた。


「そちらこそ、俺が四木さんの優秀な子飼いだって事を、知らない訳じゃないですよね。不味いんじゃないですか? 粟楠会内部での争いは?」

四木は古参の幹部で、赤林は途中で参入してきた新参者だ。
臨也と揉めるだけならいい。
だが、四木の庇護下にいる彼を、四木の許可無く勝手に殺してしまった場合、四木の面子を潰したと見做(みな)され、組で立場が苦しくなるのは赤林である。

ヤクザの世界は、本当に判り易くて笑える。
案の定、赤林はぎりぎりと奥歯を噛み締めて睨んだ後、やがて突きつけてきた刃を杖に収めた。

ソファから立ち上がり、玄関に向う。
「波江、コーヒーはもう要らない。赤林さんはお帰りだ」

波江は、無言のまま見送りの為に、エプロンを外し、キッチンを離れた。
だが、赤林は廊下へと続くドアの手前で振り返った。

「折原、四木の傘下に納まっているからと言って、いい気になるなよ。俺が今から裏取引を持ちかけて、あいつが貴様を切れば、その瞬間……お前は死んだも同然だ。俺は、俺の愛娘を取り戻す為なら、四木の靴だって這いつくばって舐めてやれる。【粟楠会の赤鬼】は、安かぁねぇんだ。情報屋風情が舐めるな」

彼は強烈な捨て台詞を残して、腹立だしさのまま勢い良く、ドアを蹴り閉めて帰っていった。
赤林に態々脅されなくても、いよいよこの身が危うくなってきたのは十分承知している。



「あー、ホント、まいったよ。……たく、俺の顔だって、立派な商売道具なのにさ……」


もう一つ溜息をつき、鏡を覗き込めば、綺麗な頬にざっくりと大きな傷ができている。
只でさえ刃傷は治りが遅いというのに、十センチ近くもやりやがって。

「波江ぇぇぇぇぇ、救急箱ぉぉぉ!!」

赤林を送り出し、戻ってきた秘書は、そんな上司に無言で薬箱を押し付けると、とっとと踵を返して、椅子にかけてあった春物のコートを手に取った。
時計を見ればもう18時だ。
勤務時間終了きっかりに、帰宅準備に入りやがって。


「ねぇ、俺血が滲んでんだよ? 手当てぐらいしてよ」
「甘えるんじゃないわ。私は残業を一切しない主義なの」


相変わらず、雇い主に媚び諂いも一切しない、ドライでいい根性してやがる。


仕方なく、鏡を見ながら自分を手当てするが、時折、自分の元々の目の色とは違う『赤』が、臨也の意志に反し、疼き出す。
これだから、夜に鏡を見るのは嫌なのだ。

鴉みたいな漆黒の髪に、真っ赤な血の色のような瞳。
もともと悪魔じみた顔立ちなのに、こんな、赤々と勝手に光る目という後付オプションなんて要らなかった。


「……ああ、もう、ほんとウザい。イライラする……」


鏡に映った自分の赤く光る瞳に、爪を立てる。
そしてずきずきと痛む左肩に手をやる。
ここだけは、現状臨也にとって、おぞましい部位だ。
取り替えられるものなら、抉って燃やしつくし、この地上から殲滅してやりたいぐらい汚らわしい。


「妖刀風情に人間を取られてたまるもんか。人間は俺のものだ。人LOVE!! 俺を含めた人類全部を俺は愛している。貴様らみたいな魑魅魍魎が、人の皮の中に勝手に入ってんじゃねーよ寄生虫がぁぁぁぁぁぁ!!」


シネシネシネシネ
キレキレキレキレ
愛シテル愛シテル愛シテル


がりっと肩の傷口を爪で抉る。
激痛に眉をしかめつつ、煩い体内の声を封じる。



(あの女……、憎い園原杏里め……!! 俺はお前を一生許さない………)



まるで麻薬が切れた中毒患者のように、震える手で携帯を引っつかみ、番号検索で、岸谷森厳のアドレスを呼び出す。



「よくも俺を切りやがって。妖刀なんかに、罪歌の子供なんかに………、この俺がおめおめなると思うなよ、チクショウ!!」



そして彼は勢いのまま、通話ボタンを押した。



★☆★☆★


四話目終了です。
ここで調度『ありえねぇ』のお話も、折り返し地点になります。
ですが、その次の『許せねぇ』も控えておりますし、話全体で見るとやっと六分の一までが終わりました(滝汗)

パズルを組むように頑張って綴っていきますので、道程も長いお話ですが、楽しみつつお読みいただけましたら嬉しく思います。

ここまでお付き合いくださいましてありがとうございました(なむなむ)