夢色失色(4)
JKC社員、二宮潤の実兄にして、――――全ての鍵」
悪魔が、囁いた。
夢色失色(4)
「潤、潤」
兄は、よくできた人だった。
俺も両親も、そんな兄が自慢だった。
「ごめんな」
兄の心が壊れたのは、
兄が高校一年生になって、すぐのことだった。
「どうしたの、兄貴。突然謝られても、困るんだケド」
「ごめんな、」
兄は優しい人だった。だからこそ、こうなる運命を選んでしまったのだ。
兄が付き合っていた女性が、亡くなったそうだ。
兄はその女性と付き合うまで恋愛経験など全くなく、寧ろ弟の自分のほうがそういうことに関しては経験があったようにも思う。
その女性は、電話で兄を呼び出して、その目前で、飛び降りた。
所謂自殺とやらだ。
兄は助けられなかった自分を責めた。
結局女性の死の理由については、俺には何も分からなかったけれど。
「兄貴?」
兄は、滅多に部屋を出なくなった。
俺は率先して兄を部屋から出そうとしたり、新しい恋人作りのきっかけを提案したり、兄を少しでも元気付ける為に、全ての手を施した。
でも何もかわらなかった。
そして兄は、自殺未遂を犯した。
「学校の屋上で倒れてたんだってネ」
「…そうだったか?」
「自殺でもしようとしたの?」
「…わからない」
「…わからないって、なに」
「わからないんだ…思い出せない、なにも…思い出せないんだ…」
なぜ自分が屋上に倒れていたのか、自分が何をしようとしていたのか、兄の頭の中から、その記憶だけが抜けていた。
「ゆっくり思い出していきましょう」
そういったのは、兄の通っていた高校の保険医だった。
屋上に倒れていた兄を見つけたのも彼女で、兄に解決策を見つけましょうと笑いかけたのも、彼女だった。
そして、兄の自殺未遂から三ヶ月が経った頃。
保険医が、兄の子供を身篭ってしまったことを、知った。
「兄貴。…どうするんだよ」
「…」
「兄貴はまだ高校生なんだよ?それにまだ心の傷だって癒えてない」
「……ごめん、」
「なんで謝るんだよっ!」
「ごめん、潤」
兄は、今度こそ本当に、自らの命を、絶った。
残された保険医は子供を産む決意をしたらしく、俺が猛勉強を経て兄と同じ高校に入学した頃には、姿を眩ましていた。
――生徒の子供を身ごもっちゃったんですって、
そんな噂だけが、学校中に無常にも流れ続けていた。
***
「ねえ、そろそろ私の自殺プランを練ってくれないかしら」
二宮がここにきてから、もう十日が経った。
数日前に出会った二人の女性とは今日も学校で顔を合わせたし、もういい加減生き続けるのも、退屈だった。
「あとチョット待ってください。そうしたら、決心しますカラ」
二宮がそういって笑う。
「決心って、何よ。あんたの仕事は私を殺すこと。違う?」
「そのとおりです加奈子サマ」
「…ならどうして決心なんかする必要があるの?仕事だって割り切っちゃいなさいよ、全く」
「それが出来たら苦労しないよ、ねえ?二宮ァ」
「…結城、やめなよ。不法侵入だけでも犯罪なのに、このままじゃ二宮君に殺されかねない…」
聞きなれたその声に振り返ると、
招いた筈のない客人が二人、
そこに、たっていた。