島の左近
処刑がまだならば、そこには何も無いはず。家の者は、いつ処刑されるのか言わなかった。
三条河原にたどり着いた時、そこに柵が設けられていた。左近は夜目が効く。一歩、また一歩とその柵に近づくと、その先にあるものが見えてきた。
見覚えのある顔が三つ。共に西軍として戦場に立った小西行長、安国寺恵瓊、そして……見間違えるはずも無い、主の三成。もともと色白であった三成の顔は、さらに色をなくし青白く死者の色をしていた。
――嗚呼、これで豊臣の世は終わった。新しい時代が来る。
そう思い、左近はあえて何もせずその場を去った。
それからの左近は、まるで抜け殻のように生を生きた。
昼夜構わず京の都の喧騒に紛れ多くの人の目に触れた。しかし、左近は関ヶ原で死んだとされている。誰も本人だとは思わなかった。
流浪の果てに左近が辿り着いたのは、京から遙か遠くに位置する対馬の地であった。
そこで左近は腰を据え、遠く離れた地から新しい世を見つめることにした。
――殿。左近は見続けましょうぞ。殿を破り、新たな世を築いたあの狸の行く末を……。そして、そちらに逝った際に、お話しましょう。
左近は見つめる。海の向こうの大阪で世作りを始めた一匹の狸を。
その後、左近は享年九十六歳を迎えるまで、対馬の地から家康を睨み続けていた。
完