マスクホン少女
―教室―
昼休み。
授業が終わり、皆それぞれ動き回っている。
購買に買い出しに行く人。
グル―プを作っている人。
ご飯そっちのけで昼寝する人。
一人で黙々と食べ始める人。
黒板を消している人。
昼食の準備を始めずに喋り始める人。
「ね〜晶」
「何?」
「今日こそは一緒にご飯食べない?」
私は毎日、昼食は一人で食べる事にしている。
「ごめん、一人で食べたいんだ」
「そんな事言って…彼氏とかいんの?」
「何でそうなるわけ?」
「ははっ、何となくね」
私のたった一人の友達、玲。
この娘になら何でも話せる。
包み隠さず、正面からぶつかってくれるから。
本音で話せるから。
だから彼女を友達として認める事が出来る。
「ごめん、お昼は一人で」
「そう…あ〜あ、マスクをとった晶が見れると思ったのに」
「そんなに気になる?」
「…晶、マスクとれば可愛いと思うんだよね」
「…何も出ないよ」
「あ、ばれた?」
冗談を言い合える。
友達だからなせる事。
…彼女は私の事を友達だと見てくれているだろうか?
「それじゃ行くね」
「うん…でもやっぱり可愛いと思うんだよね」
「…ありがと」
でもやっぱり感じてしまう。
この娘は、友達だ。
でも私は、自分が友達だと思ってる娘に対しても、話すのに抵抗がある。
―中庭―
この学校には中庭みたいなのがいくつかある。
私はその中でも滅多に人が来ない所で昼食をいつもとる。
この時間、ここは私の舞台になる。
私はこの昼休みがいつも楽しみで、楽しい。
寝ている時と同じくらい好きだ。
マスクをとる。
ヘッドホンはかけたまま。
iPodから音楽を流す。
曲が流れる。
弁当を開ける。
私は歌う。
パンクを歌う。
女の子が好むようなジャンルには興味ない。
私の感覚だと、そういうのって大概見た目重視だと思う。
音楽に見た目なんか必要ない。
そんなのおまけだと思ってる。
音楽に必要なもの、それはメッセ―ジだ。
だからくねくねしたり、踊ってるやつはどうでも良い。
『ご飯を食べてる時に歌わないの』
『行儀悪い』
母に良く言われてた。
でもそんなの気にしない。
声をそれなりに出して歌う。
周りに人がいないから恥ずかしくない。
でも私の声は私には届かない。
ヘッドホンで曲を聴いているから。
間奏で弁当を消化していく。
歌が始めればまた歌う。
その繰り返し。
音程が合ってるのかもわからない。
でもはずしてない自信はある。
私の勘がそう訴えている。
弁当が空になる。
マスクをつける。
昼休みも終わる。
そしてこの至福の時間も終わる。
そう思った。
ベンチに座っている私の前に、一人誰かが立っていた。
『!』
何か言っているらしい。
上を見上げる。
一人の男子がにやにやしながら、でも何かを叫んでる。
何でこんな器用な事が出来るんだ?
『!』
誰?
まだ何か叫んでる。
何言ってんの?
わからない。
『!』
何かを強く訴えている。
私にはそれが何なのかわからない。
…あ、曲流しているからか。
…めんどくさいなぁ、何だよ、もう。
iPodに手を伸ばそうとした瞬間、男子が私の肩を掴んできた。
びっくりしたけど、それ以上に何かが爆発した。
触るな…触るな…触るな!
「何よ!」
『君の声を俺にください!』
「…は?」
これは嬉しい事?
それとも嫌な事?
この時点ではまだわからない。