マスクホン少女
―教室―
授業と授業の間の休み時間。
十分というこの短い時間の中、私はひたすら音楽を聴く。
「―――」
「………」
周りではクラスメイトが話をしている。
「!」
「…?」
何の話をしているのだろう?
興味はないけどさ。
「―――」
誰かが話かけるけど私はそれを無視する。
「―――」
何よ。
私は今音楽聴きながら、机に突っ伏してるの。
普通に考えて寝てると思わないの?
『!』
あ〜…とうとう肩叩いてきたよ。
めんどくさいなぁ。
誰よ?
ヘッドホンを外す。
耳に教室の騒がしさが突き刺さる。
元気だなぁ。
その元気を少し分けてちょうだいよ。
「なぁに?寝てるのがわからない?」
「…あんた、次移動よ?行かないの?」
「…んがっ!」
「むしろ感謝しなさいよ」
―視聴覚室―
私の学校には音楽室が無い。
だから音楽の授業は視聴覚室でやる。
「今日は皆さんで枯葉を歌いましょう」
音楽教師の小林がピアノを弾き歌う。
誰も続かない。
「晶、歌わないの?」
「そういう玲は歌わないの?」
「あんたが歌うなら歌う」
「…めんどっ」
しびれを切らした小林が叫ぶ。
「皆さん!せぇのっ!」
だらだら皆が歌いだす。
私と玲もこれに続いて歌いだす。
小林は嫌われている。
理由はわからない。
とりあえず皆は毛嫌いしている。
「散りゆく〜」
私は小林を嫌っていない。
人を嫌うという行為自体めんどくさいのもあるけど、逆に小林を尊敬している所もある。
「つきせぬ〜」
生徒に体当たりでぶつかる。
私には出来ない。
少なくとも今の私には。
「ふぅ〜…、皆さん、次回はもっと元気良く歌いましょう!」
ちょうど良く鐘が鳴る。
授業終了。
生徒が一斉に視聴覚室を出る。
私と玲も視聴覚室を出る。
小林は次の授業の準備をしていた。
―廊下―
玲と肩を並べて歩く。
この学校で他に一緒に歩いた人っていたっけ?
「晶ってさ〜」
「何?」
「風邪ひいてるわけじゃないよね?」
「そうだよ?」
この流れは…。
「何でいつもマスクしてんの?」
「ん〜」
「さっき歌っていた時も、小さかったけど、綺麗な声だったし」
「それは〜…」
目の前から言葉が飛んでくる
「それは?」
それは私がマスクをする理由になった言葉。
「乾燥防止よ」
『あんたの声なんか二度と聞きたくない!』
「乾燥防止って、今五月なんだけど…」
そして私の頭を貫いてはるか後方へ飛んで行った。
「のどは大事にしないとね」
「あんた、いつから歌手になったのよ」
「まぁ、良いじゃないの」