わたしと会さん
わたしは会さんのことを会さんと呼んでいるが、「会さん」は本名じゃない。わたしが一方的に付けたアダ名である。
ある時、事務所の掲示板に張ってあったわたし宛のメモが、
「 グラスを出しておくこと
会 」
と見えたことから、わたしは会さんを「会さん」と呼んでいる。もちろん心の中でだけ。
達筆とゆーか、走り書きとゆーか、まぁそんなカンジ。思わず、周りを見回して人気がないことを確認してから、コッソリ写メしてしまった。
わたしの友達が、同じバイト先に来た。けっこうスピード命な仕事であるから、本人はてんてこまいになっているようだけど、わたしとしては続けて欲しいと思うわけだ。地味に入れ替えの激しい職場なのである。
そんな彼女と、初めて一緒に仕事をする。もちろん、会さんも一緒に。遠目で様子を伺うと、ズバズバした物言いの会さんにタジタジなようだ。
すれ違いざまに、「会さん、超かっこいいよね。」と言ったところ、「最初は凄く怖かったけど、きみがああ言うから、良い人かもと思った。暗示に弱いのね、私。」と後に語っていた。会さんも素敵だけど、この友達もなかなか面白い子だと思う。
会さんは、優しい。
ぶっきらぼうな物言いの中にも、思いやりが感じられ、ギャルゲーで言ったら、ちょっとツンの入ったクーデレといったところだ(何故ギャルゲーのキャラクターで例えたかは謎)。
そんな会さんは、営業時間が終わった後、残った作り置きの料理を貧しいバイトに分けてくれる。ホントはしちゃいけないことなんだろうけど、どうせ生ゴミ行きなもんだから……。
「腹減ってるだろ、喰え。」
その言葉が、疲れた心身にも、すっからかんのお腹にも、染み渡るというコトです。
※この物語はフィクションですが、モデルが実在します。
無許可なので、告げ口しないようにー。