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巡り廻ってまた会おう

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This world


 どうやらぼーっとしすぎたらしい。気が付いたら目の前に鮫がいた。しかも目があった。
 鮫がいる巨大な水槽は、水族館の一番奥にあったはずだ。いつの間に此処まできたんだろう。巨大な鮫と小さな魚が共存出来ているという不思議な水槽を見上げながら、真琴は立ち尽くしていた。流していた音楽は、電池が勿体無いのでとっくに止めてある。 水槽のポンプの音だけが響く世界。
 何で私はこんな所にいるんだろう。朝偶然、水族館の記事を見たから。それ以外に理由は無いはずだ。ならば何故、私は泣いている。重力に従い流れていくそれを拭いもせず、真琴はただぼぉっと水槽を見つめる。何故、こんなにも涙が溢れてくるのだ。どうして。


「……わかんない」
「何が?」


 ぽつりと溢した言葉に返事が帰って来るとは思わなかったため、びくり、と肩をゆらして斜め後ろへと視線をむける。人が、いた。というかこんな時間に水族館に来る人物が私以外にいたとは。……なんとも物好きな。


「……堂々とサボりか?」


 隣(斜め後ろ)の人――彼は此方をみてニヤリと口角を上げた。
 人を小ばかにしたような、眠たそうな瞳で此方をみている。


「……そっちだって制服着てるし、人の事言えないじゃん」
「いいんだよ、俺はサボりだから」
「なにそれ」
「それよりアンタ、何がわかんないのさ……ってかなんで泣いてんだよ」


 初対面の、それも男子に何故話さなければならないんだ。あまりにも馴れ馴れしい男の口調にムッとしながら、真琴はセーターの裾で乱暴に涙を拭うと、水槽へと向き直った。



「彼氏に振られた、とか?」
「あなたには関係ない、つか元々彼氏いないし」
「違うか……じゃ、なんだかよくわかんない衝動に駆られて此処に来た、とか?」



 いつの間にか彼は隣に立っていた。真琴は言い当てられた事に驚き、固まった首をぎこちなく回して隣へと視線を向ける。


「………なん、で、貴方」
「俺もそうだから。なんか急に此処に来たくなった」
「そっか」
「で、さっきの答えは?」
「何で泣いてるのか。なんか此処にいるだけで涙がでてくるんだよ」
「そーかよ」


 拭っても拭っても流れだす涙に、正直不安になる。自分の体なのに制御がきかない。心と体がバラバラに別れてしまった気分だ。それに、見ず知らずの人(しかも男)の前で泣いてしまっているのだ。いつもの真琴は何処にいった、と叱りたくなる。あぁ、なんとも情けない。
 時折鼻をすする真琴に、彼はタオルを握らせた。


「さすがにセーターはヤバいだろ。ハンカチか何か無いの?」
「ない」
「即答かよ」


 彼は苦笑しながら、それを使えとタオルを握った手を軽く叩いた。それでも動こうとしない真琴の手からタオルを奪うと直に拭いてきた。


「なんか、ごめん」
「いーって。袖触れ合うも多少の縁ってね」
「……振り合うじゃない?」
「あ、それ。で、アンタ名前は?」
「……真琴」
「真琴、ね。見た通りの名前だな」
「何それ、ケンカ売ってる?」


 「別にけなしてない。怒るなよ」と苦笑する彼に、真琴は毒気を抜かれる。あれだけ流れだしていた涙も、殆ど止まっていた。
 椅子があるのに座ろうともしないで、二人はただ水槽の前に立ち続けている。目の前を何度も鮫が通り過ぎて行くが、鮫の泳ぐルートなのだろう。少し分かってきた気がする。


「なぁ、真琴さん。俺達初対面だよな?」
「うん」
「俺の名前分かる?」
「……咲月?」
「正解。なんで?」
「わかんない。ただ、なんとなく『咲月』って気がしただけ」
「俺もお前が『真琴』って気がしたんだよ」


 本来ならそこから会話が繋がるのだが、二人はそれ以上何も話さなかった。軽く触れ合った指先から、徐々に二人は手を絡めてゆく。どちらが先、と言うことはない。合図もなしに、それが当然であるかのように、固くしっかりと握り合った。





巡り廻ってまた会おう

――『見つけて奪ってやるさ』

     もう、離さない──







作品名:巡り廻ってまた会おう 作家名:ゆくま