少女の日記 5
あの女の子は岬というらしい。岬さんという名のこの家の娘さんで病気を抱えてるらしい。
岬のあんな表情は久しぶりに見た、となんか親二人で納得してるけどまずいでしょーよ!
「あの、その岬さんの部屋ってどこにありますか?」
とりあえず謝ろう。
「あぁ、階段をのぼって左の部屋だよ。」
と、おじさんはゆっくりした口調で答える。
なんでこの人はこんなに落ち着いてるんだよ畜生。
俺は階段をのぼって左の部屋をノックしながら聞いた。
「あのー、さくや岬さんですか?」
そして、返事が返ってきた。
「あ、はい、岬です。あの、君は?」
・・・明らかに警戒されてるよなぁ。でも当たり前か。
「お、俺は、じゃなくて僕は明日谷 和久っていいます。えっとー、そのごめんなさい!」
俺は扉に向かって全力で頭を下げていた。
「なんで、謝るんですか?」
お?すんなり返事が返ってきたぞ?
「えっと、そりゃ女の子がいる家に遠慮なく入ったのはまずいなーって、しかも寝起きっぽかったし、さ。」
「そう、なら別に謝らなくていいよ?ちゃんと顔とかは洗ってたし、お父さんとお母さんの笑顔も久しぶりに見れたし。明日谷君だっけ?ありがとうね。」
まただ、また俺に礼を言ってくれた。
おかしい、おかしいって。
ここは礼を言われるとこじゃなくて怒られるとこのはずだ。
「なんでさ、礼を言ってくれるの?」
・・・しまったあ!俺の悪い癖だ、思ったことを心の中に収めることができないで口に出しちゃうんだよなぁ。
「なんでだろうね。私自身よく分からないかも。でも、さっき言ったようにお父さんとお母さんの笑顔を見れたのは素直に嬉しいの。」
俺は頭を扉に下げたまま質問した。
「親と、ケンカでもしたの?」
「ううん、そういうわけじゃないの。お父さんかお母さんに聞いた?私が病気抱えてること。」
「あー、うん、聞いた。」
「その病気でさ、お父さんとお母さんに迷惑かけてるのかなーって思ってちょっと距離開けてたんだ。それで明日谷君と話してる時、お父さんもお母さんも笑顔だったから。嬉しかった。」
その最後の 嬉しかった。 は本当に嬉しそうな声だった。