冒険倶楽部活動ファイル
私は荷物の中から冒険ポーチを取り出した。
あれから年月も経ってボロボロになっていて、元々白かったので汚れや染みが目立ち、さらにエンブレムある五亡星も剥れかけていた。
苦しい時、辛い時、話作りに行き詰まり筆を置こうかと思った時、何度もこの冒険ポーチに助けてもらった。
成長してもう身につける事はできないが、それでも私にとっては人生を変えてくれた大事な宝物だった。
すると冒険ポーチを眺めていた私の後ろに1人の男の人が近づいてきた。
「失礼、ちょっといいですか?」
「えっ?」
私は振り返る、
身長は180くらいあるだろう、頭にはデンガロン・ハット、赤い淵のメガネをかけ、黄色い半袖のシャツの上から緑のベスト、五亡星の模様が描かれたバックルのベルトを巻いたジーンズを穿いて足には底の厚い革靴を履いて、右肩には荷物袋を下げていた。
その人は私のように手摺に手を乗せ、身を乗り出すと星上島を眺めた。
「あ、あの……」
「え…… ああ、すみません、懐かしくてついはしゃいでしまいました」
「星上島がですか?」
「ええ、昔あそこに住んでましてね…… 貴女は観光か何かですか?」
「あ、いえ…… 私は約束がありまして」
私は手の中の本を見た。
「私も昔はあそこに住んでたんですよ、でも家庭の事情で卒業式の寸前に転校が決まってしまって…… その時に友人達とまた会おうって約束したんです」
私は話した。
私自身を変えてくれた友人達、その中で真っ先に顔が浮かんだのは『彼』だった。
頭も良いし運動神経も良い、ただ誰よりも子供で、誰よりも優しい『彼』の事を……
「ごめんなさい、私の事ばっかりで……」
私は軽く頭を下げた。
でも今になって思って見るとあれが本当の初恋だったのかもしれない、
実は学生時代結構男子達から声をかけられる事が結構あった。
しかし転校しなければならないと言う理由もあるので断っていたが、その度に『彼』の事を思い出した。
するとその人は口の端を上にあげると自分の荷物を床に下ろした。
「気遇ですね、実は僕も会いたい人がいてあそこに行くんですよ」
荷物の紐を解いて右手を突っ込みながら話を続けた。
「昔あの島に幼馴染や友人達とある倶楽部をやってましてね、今思えば子供の遊びなんですけど…… でも僕にとって毎日がとても充実してました。特にあの子が来た小学校最後の年が1番楽しかった」
「えっ?」
その人の言葉に私は耳を疑った。
倶楽部、子供の遊び、小学校最後の年…… 思い当たる節はたくさんある、その事を知っているのは2人だけ、しかしその人は家庭の事情で海外に言っていたと言い、さらに取り出した物を見ると私は目を丸くした。
それはボロボロのウェストポーチだった。
色は違うが私と全く同じ、剥れかけた冒険倶楽部のエンブレムの黒い冒険ポーチだった。
「秀……君?」
私の肩が震える、
「久しぶり、ほのか」
秀君は私を覚えていてくれた。
私の目に涙が浮かぶと頬を伝って顎を下って冒険ポーチに零れ落ちた。
そして私は涙を拭きながら秀君にこう言った。
「うん、秀君……」
私は心がいっぱいになった。
もし秀君達と出会わなかったらこんな事にはならなかっただろう、今はこの出会いに感謝してる、
人生は何があるか分らない、先の見えない事に不安になるだろう、1人になって辛くなる事や泣く事もあるだろう、
しかしそれだけではない、人生にはこうして嬉しい事や楽しい事で溢れている、確かに運もあるだろうけど、それを探せるか探せないかは自分次第だった。
小学校の頃から続いてた私達の冒険、たとえ幕を閉じても私は歩み続けるだろう、なぜなら人の人生こそ冒険なのだから……
冒険倶楽部活動ファイル・完
作品名:冒険倶楽部活動ファイル 作家名:kazuyuki