けいたいでんわ
「しかもね、この前なんか、私出勤が早まっちゃって、朝起こしてねって頼んだんだけど」
「うんうん」
「無視だよ無視! 私何度も頼んだのに、なんにもしてくれなくって」
「へええ、それは冷たい」
「でしょ?」
彼女とよく入る喫茶店。コーヒー一杯で何十分も粘りながらの愚痴大会は、週に3回は開催される。これで昼休みが潰れるなんてことは、もう数えきれないほど。
「付き合い始めてまだ少ししか経ってないのに、私たち合わないのかもしれないなあ……。前の彼氏と別れてから、まだ一ヶ月なのに」
「私思うんだけど、あんたはさ、スパンが短いのよスパンが」
「前の方がよかったかも」
「そんなこと言ってたらキリがないでしょう」
とっくに飲み終わってしまったコーヒーカップの取っ手を弄びつつ、私は相槌を打つ。
「しかもね、彼たまにおかしくなるの」
「おかしく?」
「夜一緒にいる時とか、壊れたみたいに急に奇声を発したり」
「なにそれ? 病院行った方がいいんじゃないの?」
「やっぱり持っていくべきかなあ?」
「え? 持っていく?」
「うん、修理に」
そう言いながら彼女が手にしたのは、最近変えたばかりらしい携帯電話。
「ちょっと待って。さっきから言ってる新しい彼氏って……」
「え? これのことだけど」
最近流行っているらしいクマのキャラクターのストラップが、可愛らしくふらりと揺れた。
「病院行った方がいいの、あんたかもね」