夢色失色(3)
学校帰りのことだった。
なぜか迎えに来ていたあの男の白いスポーツカーを見つけたので、丁度いい足になるだろうと乗り込もうとした瞬間、腕を掴まれ強く引き寄せられた。
誰だろう。思いながら、その顔を見上げる。
その途中で視界に入ったあの男、二宮潤が大きく顔を歪めていたのには、さすがに驚いた。
「…だれ?」
「私は結城翠。で、こっちは桐崎麻衣!明日からこの学校の生徒!よろしくね」
「………あ、うん。こちらこそ「何でいるんだヨ」……え?」
恐ろしく低い声だ。思わず視線を其方にやると、運転席から身を乗り出す二宮の姿。
「えー、翠よく意味がわからなあい」
満面の笑みで首を傾げて言う結城さんに、二宮の眼光がさらに鋭くなる。
「だったら何度でも聞いてやる。
何でココにお前らがいるんだ」
(ふざけんな)
(執行人は三人もいらねえんだよ)
二宮が続けた言葉に、私は目を見開いた。
夢色失色(3)
「…先ほどはとんだご無礼を。
私は結城にご紹介に預かりましたとおり、桐崎麻衣と申します。
そちらの二宮潤さんと同じ、JKCの社員です」
「で、私が結城翠。同じくJKC社員ね」
事態が把握できないので、ちゃんと話してくれと二宮に詰め寄ると、二宮はふと眉根を寄せた後、ふたりに再度自己紹介をするように申し出た。
「……社員ってことは、此方には仕事で?」
「いいえ。結城の決して良いとは思えない趣味につきあわされているだけです。それに、私は死因隠蔽班、結城は情報班所属ですから、実行班のように実際のお客様とのお付き合いはありません」
「…良いとは思えない趣味…?」
「趣味とかでひとくくりにしないでよー。面白いことはみーんなで楽しまなきゃ損損!」
「え…?」
「結城!お前は黙ってロ…!!客を不安にさせるような言動は慎メ!」
「了解了解」
くく、と喉を鳴らせて笑いを堪えるその姿に、私は不安になって二宮を見つめる。
「…面白いことって…」
「加奈子サンは気にしなくてイイです。先に車に乗っていてください。…おい、お前ら。有給とってまで来たからには仕事を手伝いに来たんだろ?ん?…まあどうせお前らに拒否権はないんだ。俺の仕事を手伝え」
「あははっ、いーよ!そういうと思ってきたんだしっ」
「…すいません、もちろんそのつもりです」
声こそ聞こえることはないが、乗り込んだ車の車窓から見える二宮の表情が、歓喜に歪んだような気がした。
「結城翠、桐崎麻衣。
『杉崎加奈子を生かすこと』
それがお前たちの、仕事だ」
***
歯車が動き始めた。
かみ合わないわたしの思いと、
かれの思い。